ミラノを題材にした名エッセイで知られる須賀敦子の『コルシア書店の仲間たち』(文春文庫)に、ミラノの名家出の婦人宅を訪問した際のことが書かれている。
「通りから見た平凡な外観とはうらはらに、内側に思いがけずうつくしい中庭を秘めている」「アパートメントの窓からの眺めは、ミラノの都心にいることをすっかり忘れさせるほど、緑が溢れていた。」
お世辞にも緑が多いとは言い難い大都会ミラノだが、実は街を覆う殺風景な石造りの建物の中にはたくさんの緑が潜んでいるという。
旅人として、ミラノの街を外から舐め回したものの、ミラノのもうひとつの風景、美しい中庭を見つけるのは難しい。貴族の知り合いもいないしなぁ……と思っていたら、観光客でも気軽に、しかも無料で! 潜り込める空間があったのだ。
こちらは、オペラ「椿姫」「アイーダ」などで知られる、イタリアを代表する作曲家ジュゼッペ・ヴェルディのお墓がある通称「カーザ・ヴェルディ(Casa Verdi)」(ヴェルディの家)。
ご覧のように、周囲にはビルがひしめき、景観としてはわりと平凡なエリアである。
「カーザ ヴェルディ」の正式名称は、Casa di riposo per musicisti Fondazione Giuseppe Verdi。訳すと「音楽家のための養老院」。ヴェルディが1899年に「貧しい音楽家が老後に暮らせるように」と建てた慈善のための建物で、ヴェルディ死後の1902年から音楽家の受け入れを開始した歴史を持つ。
彼とその妻が眠る中庭の礼拝堂は、入場無料で誰でも見学可能。2023年1月時点では、入場するのにマスク着用が義務づけられており、併設のミュージアムも、私が行ったときはコロナ対策のためにクローズ中(逐次公式サイト等で見学情報のチェックを)。
・ヴェルディの家の中庭にある、音楽の神様が眠る美しい礼拝堂
それでは、マスク着用のうえ、天才が夢見た音楽家たちの老人ホームへいざ!
そして足を踏み入れた中庭はというと……。
須賀敦子のエッセイで受けたイメージ通りの緑!
こういう空間が、石造りの建物で覆われたミラノの街のあちこちに潜んでいると思うと、この大都会の印象もがらりと変わる。
オペラファンにとっては聖地ともいえるこの空間に「須賀敦子のエッセイで見たミラノの風景を体験したい」という動機で来ただけでは本当に申し訳ないので、偉大なる音楽家のお墓に手を合わせることに。
こぢんまりとしているものの、美しいフレスコ画で彩られている優雅な礼拝堂。ヴェルディは本当に音楽の神様になったんだなぁと実感。
<「カーザ・ヴェルディ(Casa Verdi)」>
公式サイト(英語):https://www.casaverdi.it/en/
・ヴェルディの家の帰りには、素朴なミラノのお菓子をお土産に。
さて、カーザ・ヴェルディの見学が終わったら、そこから歩いてすぐのお菓子屋さん 「パスティチェリア ブオナローティ」(Pasticceria Buonarroti)にも立ち寄ってみよう。
街の小さなお菓子やさんという風情だが、1920年創業の老舗。
ずらりと並ぶペストリーとエスプレッソをスタンディングでさっといただく紳士淑女多数。お値段もお手頃。
ケーキも色々。素朴なルックスがたまらない! ガッレリアにあるプラダグループの「マルケージ 1824」と対極にあるような親しみやすさ。みんな違ってみんないい。
私はせっかくなので、ミラノの郷土菓子、パネットーネをお土産に。日持ちが2ヶ月くらいするといわれたが、2日ほどで完食。朝ごはんにぴったりのパン、お味も素朴で美味しかった。
<「パスティチェリア ブオナローティ」(Pasticceria Buonarroti)>
公式サイト:https://cremeriabuonarroti.it/
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トリッププランナー編集長。 これまで行った旅先は世界40カ国、うち半分くらいはヨーロッパ。興味関心のあるテーマは歴史と建築、自然。一眼レフ好きだったが重くて無理になりつつある今日このごろ。