ロマンティック建築ファンとしては、死ぬまでに一度は行っておかねば、と思っていた場所の一つ、フランス北東部の街、ナンシー。アール・ヌーヴォーの都として有名で、日本でも人気のエミール・ガレもこの地の出身だ。
今回、この街を訪れた目的は、ずばりアール・ヌーヴォー建築めぐり。直線的で、機械的で、ちょっとつまらない、昨今の建築とは著しく違う、有機的で曲線的、草花のモチーフが絡み合う、ロマンティックな建築を本場で見てみたい!
ということで、今回は私が足を棒にして歩いて見たアール・ヌーヴォーな建築・インテリア・アートをGoogle Map付きでご紹介!完全保存版です!
・ナンシー駅からナンシー旧市街エリアの必見アール・ヌーヴォースポット
まずはユネスコ世界遺産・スタニスラス広場があるナンシーの旧市街から攻めていこう。狭いエリアにぎゅぎゅっと名所が詰まっているので簡単に見て回ることができ、足もそれほど疲れない。
以下に挙げた有名スポット以外にも、そこかしこに、アール・ヌーヴォーなデザインを発見できるので、ぜひドアノブや手すりなどに目を凝らしながら街歩きを楽しんで。
1.ブラッセリー・エクセルシオール
さて、もしあなたが、ランチタイムやカフェタイムにナンシー駅に降り立ったなら、まず足を向けてほしいのが、ブラッセリー・エクセルシオールだ。
1911年にナンシーの工芸家たちが参加して作られたアール・ヌーヴォーなインテリアが見事な老舗ブラッスリー。ルイ・マジョレルによる家具やシャンデリア、ドームによるランプ、そして階段の手すりはジャン・プルーヴェが手掛けるなど、参加アーティストもため息が出るほど豪華。
こんな豪華なレストラン、さぞかしお高いんでしょ? と心配になるが、それが思ったほどでもなかった。私はランチタイムに、せっかくだからとこの地方の名物、キッシュロレーヌを注文したが、10.5ユーロとわりと普通。
バターや生クリームたっぷりのキッシュにサラダとパンがついてくるので、女の腹ならこれで十分。
ベル・エポックのナンシーに迷い込んだような体験ができてこの値段なら文句なし。ナンシーに来たならぜひ一度は行ってほしいブラッセリーだ。
Brasserie L’Excelsior https://www.excelsior-nancy.fr/
Google Mapはこちら
2.ジェナン穀物商店
エクセルシオールからも歩いてすぐの有名アール・ヌーヴォースポット。1900年から1901年にかけて作られた歴史的建造物で、設計はアンリ・ギュットン、ステンドグラスはナンシー派(エコール・ド・ナンシー)の巨匠、ガラス工芸家のジャック・グリューベルが手掛けたもの。
Commanditaire Jules Génin Goole Map
3.スターバックス・ナンシー
1912年築のアール・ヌーヴォー様式の建物内にあるスタバ。もとは新聞「L’Est Républicain」の本社があった場所だとか。建築はアールヌーヴォーだが内部は普通なので、外観だけ眺めるのでOK。
Starbucks Nancy Est Republicain Google Map
4.ヴァクスレール百貨店跡
1899年から1901年にかけて、建築家シャルル・アンドレと息子のエミールによって建てられた百貨店跡。
l’ancien magasin Vaxelaire Google Map
5.LCL 旧クレディ・リヨネ銀行
1901年に完成した建物で、ジャック・グリュベールによる長さ23m、幅8mの天井のステンドグラスが見どころ。今も普通に銀行として営業しているので、内部を見たいなら平日の営業時間内に。
LCL Banque et assurance Google Map
6. 商工会議所の入口
アール・ヌーヴォーの工芸家のグループ「エコール・ド・ナンシー」の芸術家たちが参加して作られたアール・ヌーヴォー建築。特にその優美なファサードが見学ポイント。
Chambre de Commerce et Société industrielle de l’Est Google Map
7.ナンシー美術館
世界遺産、スタニスラス広場に面する美術館。中世から現代まで豊富な絵画のコレクションを展示しているが、アール・ヌーヴォー的見どころは、地下のドーム兄弟による圧巻のガラス工芸品コレクション。フランス最大の(ということはつまり世界最大)の900点ものドーム コレクションを誇り、展示総数は約300点!
薄暗い照明のもとで美しい光を放つガラスの数々は、ひたすら美しく、ため息の連続。なにか一つでも買って帰りたいな、と美術館の帰りにアンティークショップに立ち寄ってみたけれど、思い出のために買うには高価すぎて断念。この美術館の空間を脳裏にやきつけておこう…。
・ナンシー派美術館周辺エリアのアール・ヌーヴォースポット
旧市街からは少し離れているけれど、ナンシーでアール・ヌーヴォーを堪能したいなら絶対に外せないのがナンシー派美術館。そこまで足を運ぶなら頑張って一緒にめぐってほしい2つの名所とは? 結構歩くけど、歩けないほどじゃない距離なので頑張ってめぐってみて!
1. マジョレル邸
ナンシー駅から旧市街と反対側に、線路を超えて歩いて約20分で到着するのがこちらの優美な邸宅。アンリ・ソヴァージュによる設計で1902年築、ナンシー派の家具デザイナー、ルイ・マジョレルの自宅兼アトリエだった建物で、現在はミュージアムとして一般公開されている。内部等の詳細レポートはこちらから!
Villa Majorelle Google Map
2 ナンシー派美術館
マジョレル邸から歩いて約10分、ナンシー派美術館はアール・ヌーヴォーに特化した世界でも稀なミュージアム。ナンシー派の美術館としては世界唯一。
ナンシー派のコレクターだったウジェーヌ・コルバンの邸宅跡を利用し、エミール・ガレを筆頭に、家具やガラスなど多くの工芸作品を展示している。内部等の詳細なレポートはこちらから!
・Musée de l’Ecole de Nancy Google Map
3 ラング邸、マルグリット邸、グリシーヌ邸などコロネル・ルナール通りのアール・ヌーヴォー邸宅群
ナンシー派美術館から徒歩20分ほど頑張って歩くと、なぜかアール・ヌーヴォー様式の豪邸が密集しているコロネル・ルナール通りにたどり着く。今も現役で使われているお屋敷なので内部見学はできないが、外壁などに建築家の名前や建築年が記されているので、外から鑑賞するのは観光局的にOKということなんだろう。
とまぁこんな感じで、いわば1900年代初頭生まれのお屋敷街。
1871年、普仏戦争でプロイセンに敗れたフランスは、アルザス・ロレーヌ地方をドイツに割譲。フランス領として残ったナンシーには、ドイツに併合されるのを嫌った人々(主に多くの資産家)がそれらの地方から大挙して移り住み、ナンシーの人口は急速に膨れ上がったとか。
1900年はじめに花開いたナンシーのアール・ヌーヴォーは、そうした彼らの資金力も大いに貢献したはずだ。おそらく当時の資産家たちが暮らしたでろう優雅な住宅街を歩いていると、戦争の副産物として花開いたナンシーの黄金時代のきらびやかさを肌で感じることができるのだ。
Rue Colonel Renard Google Map ※Villa Lang(ラング邸)を目指していくとわかりやすい。
…と、ものすごく長い記事になってしまったが、基本的に上記すべてを徒歩で巡っても1日あればOK。旧市街はカフェや店がたくさんあるが、ナンシー派美術館付近はわりとガチな住宅街で、店も少なめ。水分補給など困るケースもあると思うので、駅前等で入手していくのがいいですよ。
<ナンシーへのアクセス>
・パリからTGVで約1時間半
・隣国ルクセンブルクから普通列車で約1時間半
飛行機の場合、ルクセンブルク空港か、メス・ナンシー・ロレーヌ地方空港が最寄りとなる。ルクセンブルク空港のほうがヨーロッパ各都市からのアクセス至便。さらに詳しく。
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トリッププランナー編集長。 これまで行った旅先は世界40カ国、うち半分くらいはヨーロッパ。興味関心のあるテーマは歴史と建築、自然。一眼レフ好きだったが重くて無理になりつつある今日このごろ。