私の場合、旅の目的の多くを占めるのが建築ウォッチングだ。絵や彫刻などと違って、絶対に日本に来ることはないアートだし、写真で楽しむにも限界があるからだ。大自然と違って天気に左右されず、いつもそこにいてくれるのも心強い。
ということで、2024年もヨーロッパ各地で名建築を見たけれど、個人的に印象に残っているヨーロッパ建築ベスト3濃密編を紹介したい。シンプルでスタイリッシュな現代建築がお好きな人にはおすすめしないけど、余白恐怖症か何か…? と思わず心配になるくらいの濃密空間がお好きな方はぜひ。
第3位 ローマ丨サンタ・マリア・デッラ・ヴィットーリア教会
バロックを代表する建築家であり彫刻家ベルニーニの最高傑作とも言われる「聖テレジアの法悦」で知られるイタリア、ローマにある教会。
この彫刻のすごさについては、山田五郎さんのYouTubeを観ることを強くおすすめ。
彫刻の魅力については「ローマで行くべき、美術館超えのアートが無料で堪能できる有名教会3選」で語っているので、今回は建築、インテリア編。
この教会を設計したのは、サン・ピエトロ大聖堂のファサードなどで知られ、ベルニーニの師でもあった初期バロック建築の巨匠カルロ・マデルノ(1556年 – 1629年)。ベルニーニの「聖テレジアの法悦」ばかりが注目されている教会だが、実は唯一、カルロ・マデルノが完成まで一通り指揮した作品でもある。彼の仕事の多くは建築の一部だったり改修案件だったため、まるごとプロデュースした教会は建築史上とても貴重なのだ。
金メッキされた柱、複雑な模様を描く大理石の壁面だけでも十分豪華なのに、それらに負けじと彫刻や絵が過剰に空間を埋め尽くす濃密空間。
たとえば天井を見上げれば、壮大なフレスコ画「異教徒に勝利する聖母マリア」。
「聖テレジアの法悦」がある、ベルニーニが内装、彫刻、壁画などすべてを手掛けたコルナロ礼拝堂の天井には、だまし絵のような雲のまわりを天使が舞踊る。
その他、どこを見上げてもこの有り様だ(褒めてます)。
もうお腹いっぱいだし帰ろう…と向かった出口でさえこれ。
余白に親でも殺されましたかーーー!?
まぁ、これぐらいの過剰さはヨーロッパのバロック教会あるあるなのだが、やはりこの教会のすごさは、これだけの濃密空間の中にあって埋もれない、「聖テレジアの法悦」の圧倒的存在感だと思う。金の細い棒の塊に、天然の光をあてることで実現したスポットライトが照らし出す美しくもエロティックな彫刻。
その視覚効果のすごさを体験しに、ぜひ足を運んでほしい場所。ローマには珍しく全然混んでないし、しかも見学無料ですよ。
第2位 マドリード丨サン・アントニオ・デ・ロス・アルマネス教会
「マドリードのシスティーナ礼拝堂」などとも呼ばれる、教会の内部すべてがフレスコ画で埋め尽くされた教会。正直、日本での地名度はいまいちだが、スペイン政府による「国立歴史芸術記念物(National Historic-Artistic Monument)」にも指定されている名所。まぁ、スペインの国宝みたいなものなのだ。
外観は、「え?ここ?」と戸惑うほど地味だが、中に入ると突然世界が変わる。
壁から天井まで覆う一面のフレスコ画! いろんな教会を見てきたけど、こんな内装を見たのは初めてで、入った瞬間「うわぁ…」と思わず声が出た。この凄さを写真で伝えるのは難しい。空間すべてが幻想というかだまし絵というか、まさに没入型アートなのだ。
この教会が建てられたのは、1624年から1633年にかけて。ただし、内部のフレスコ画がすべて完成したのは、その建設から約70年も経った1705年ごろ。手がけたのは、スペインのバロック美術を代表する、王室付き画家でもあったフランシスコ・リシや、フランシスコ・カレーニョ・デ・ミランダなど当時一流のメンバーだ。
正直言って、激混みで立ち止まるのも困難だったシスティーナ礼拝堂よりもずっと感動。彫刻や金メッキなどがないぶんもしかしたらコストはかかってないかもしれないけど、まるごとフレスコ画というアイデアで見事に異次元の美しさを達成。
スペイン・ハプスブルク家最後の国王となった、「カルロス二世」の肖像画もあってしんみり。繰り返された近親結婚の呪いを背負ったかのように誕生し、病弱で重い障害があった王が死去したのは1700年のこと。これによりスペイン・ハプスブルク家は終焉し、スペイン継承戦争が始まるのだ。
第1位 グラナダ丨アルハンブラ宮殿のナスル宮殿
今年観てもっとも感動した建築の1位はぶっちぎりでアルハンブラ宮殿。「有名すぎるし混んでるよなぁ」となんとなく避けてきたけど本当に行って良かった! もう異次元の濃密さ、美しさだ。
3位と2位のバロック教会は、ともすれば「息苦しい」とさえ感じてしまう濃密さだが、こちらの宮殿は主に幾何学模様で埋め尽くされているので、濃密だけどスッキリしている。いまの私たちの感覚にも近いスタイリッシュなインテリア。
とはいえ、近くで見ると細部まで手が込んでいて絶句。こんなん、一体何人の職人が何年かけて作ったのか。
面白いのは、鍾乳石飾りと呼ばれる技法。
イスラム建築特有の装飾技術で、鍾乳洞のような立体的な形状を持っており、宮殿内の上を見上げるとよく出会う飾りだ。
見学中は、気がつけば口開いてた、くらいの放心状態。
スペインに最後まで残ったイスラム王朝であるナスル朝の遺跡を、征服した側のカトリックの王が、なぜここまで完璧に残したのだろう…と不思議に思ってたけど、こんなもん、誰だって壊す勇気ないよね…。
アルハンブラ宮殿についてはその建築的見どころ、歴史などはあまた情報があるので、ここではその美しい写真をシェアするに止めよう。もう絶対に実物を見てね!
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トリッププランナー編集長。 これまで行った旅先は世界40カ国、うち半分くらいはヨーロッパ。興味関心のあるテーマは歴史と建築、自然。一眼レフ好きだったが重くて無理になりつつある今日このごろ。