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南東欧アルバニアの絶景山岳リゾート、ヴァルボナの誰もいない山でトレッキングしてきた。

南東欧アルバニアの絶景山岳リゾート、ヴァルボナの誰もいない山でトレッキングしてきた。

そもそもアルバニアに行こうと思ったのは、ここに来たいからでした。登山体験はわずか数回という初心者が、人っ子一人いないディープ・アルバニアの山へ挑んだ記録をお届け。

「日本人が一番行かない国」なんて言われたり、そもそもどこにあるのか知らない人も多い、ヨーロッパの片隅にある小さな国アルバニア。

日本での知名度は低いけれど、欧米の若者に大人気の旅先になっている理由は、その手付かずの自然のクオリティと、アジア以下といっていい物価の安さ。ヨーロッパの若者にとって「安くて近くて絶景」の国なので、人気が出るのも当たり前なのだ。

今回私が挑んだのは、「アルバニア・アルプスの宝石」と呼ばれているヴァルボナバレー(Valbonë Valley National Park )でのトレッキング。

本当はTheth(テス)という山の反対側にある村に行きたかったのだけど、私が旅した5月はじめはまだツアーがリリースされておらず今回は断念(5月中旬から売り出すらしい)。

Thethはヴァルボナから山越えしないとたどりつけない秘境的な村で、ヴァルボナからテスへ向かうハイキングコースは初夏から夏にかけて大人気。

距離は長いけれど、知人によれば「高尾山が登れるくらいのスキルがあれば大丈夫」らしい。ま、片道6時間はかかるらしいけれど。(参考URL)

私は一人旅なので山のガイド付きのパッケージツアーに参加。今日は大学生ガイドのミュアヤンくんと二人、ヴァルボナのMaja e Rosit (2,533 m)方面に向けてプチ登山に挑戦するのだ。

宿を出て、牛がうろつく道路脇をスタスタと登山口へ。ちょっと山の方に足を向ければ、もうコースが始まっている手軽さだ。

トレッキングコース入り口。舗装された道路からすっと入るともうこんな風景です。
馬がいてなかなかフォトジェニックな風景なども。

ご覧のように頂上付近は針金のように尖った岩山。あんなところ、さすがに登る人いないよねぇとミュアヤンくんに聞いたら「え、僕登ったよ」とのこと。彼はロッククライミングが大好きなのだそうだ。

「冬になるとあのあたりはすっぽり雪に包まれるんだけど、前にアメリカのCM制作会社がヘリで頂上に乗り付けて、そこからプロスキーヤーに雪山を滑らせてたこともあったよ。」とのこと。場所によってはほぼ崖みたいな角度なのでさぞかしすごいCMになったに違いない。

ヴァルボナ渓谷には、たぶん大昔の火山で吹っ飛んできたのであろう巨石がごろごろしている。磐座(いわくら)信仰のある日本なら、しめ縄を巻いて拝んでしまいそうな立派な岩ばかり。
雪解け水が豊富なため、滝や湧き水が作った池などもそこかしこにあり、「巨石、滝、湧き水」と三拍子揃った、日本だったら何かしらの聖地になってもおかしくない土地だ。

そんなことを考えながら歩いているとガイドのミュアヤンくんが、「もう少し歩くと、この山では最後の村クーカイがあるよ」という。

クーカイ!?   巨石がごろごろしているスピっぽい風景の村の名前がクーカイだと?

「クーカイって日本で最も有名な僧の名前と一緒だよ! 日本人は巨石に神が宿ると信じているので、こんな場所にある村の名前がクーカイだなんて、不思議な縁を感じるわ!」と興奮気味にミュアヤンくんに伝えたが、「へえ」というそっけない回答。

私の英語力の問題で通じてないのか、彼が興味ないのか。どなたか、私のこの思いをヴァルボナのクーカイ村の人にお伝えください……。

「アルバニア人は地名を名前に付けることが多いんだよ。たとえば、男はアルバン、女はアルバーナ、これはアルバニア由来の名前。そして、ベラト、ブローラ、ヴァルボナ(すべて有名な観光地の地名)もよくある名前。地名が名字になるケースも多くて、たとえばさっきのクーカイ村出身の人はクーカイという名字が多い」とミュアヤンくんは付け足す。
「それは日本も一緒だよ。地名が名字になっているケースは多い。でも下の名前に地名を付けるケースは少ないかな」と私は返す。千葉という苗字の人は珍しくないけど、下の名前に千葉は珍しい。

そんな話をしながら到着したクーカイ村がこちら。

Kukai village

……えーと、家が一軒しかないけど本当に村?  という感想しかない。日本とは村の概念がずいぶん違うようだ。

何はともあれ、このクーカイを超えると、山の中には文字通り人っ子ひとりいなくなる。もちろん公衆トイレも、売店も、休憩所も見晴台もない。ちなみに往復3時間ほどのトレッキング中、一人のハイカーともすれ違わなかった。こういうところが「欧州最後の秘境」と呼ばれるゆえんかもしれない。

この日の気温は13度くらいだったけど、半袖半ズボンで登山に挑むミュアヤンくん。若い。力が有り余っているのか、軽装で軽快にスタスタと山を登っていく。登山経験がたぶん5回ぐらいの私は、息切れしながらついていくのが必死。ぜいぜい言う自分の息が見苦しい。

ときおり、私がついてきていないことに気づいて手を振ってくれる若者。こっちは初心者なんだぞ……。す、少しは休ませて……。

とブツブツいうと、立ち止まってくれて、ガイドらしい解説もしてくれた。この木に描かれている白と赤のマークは、「ここが正しいコースだよ」という意味らしい(これは世界共通とも)。道に迷ったかも?と不安になったらこのマークを頼りにするといいんだって、知らんけど。

この日は日本では令和元年の初日となった5月1日。ヴァルボナ渓谷は春を迎え、まさに花盛りだった。
花の写真を撮る口実で休憩しまくっていたら、ミュアヤンくんが「あんまり休むと足に悪いよ」と言い、またスタスタと歩き出す。そ、そうなの?

写真はほとんどミュアヤンくんの後ろ姿である。ついていくのが必死だった記録と言えよう。

ご覧のようにコースのほとんどは、大した傾斜もないので初心者向きというウリ文句に間違いないんだけど、普段から山歩きなどしていない私の心肺機能ではそれなりにこたえる。

「日本から羊羹持ってきたけど、ジャパニーズスイーツに興味ある?」「大変、GoProでムービーも撮らなくちゃ」などと、あらゆる言い訳を駆使して休んではミュアヤンくんの足を止める。

しかし、今日のトレッキングツアーがガイドと二人きりで本当に良かった、と途中胸を撫で下ろした。本来は複数人仕様のパッケージツアーなんだけど、人件費が安いアルバニアでは、一人でも申し込みがあればツアーを催行してくれちゃったりする。
おかげでマンツーマントレッキングが実現したので、それなりにマイペースを保って登山できたのだ。

これがガチアウトドア派のアメリカ人学生たち等と一緒だったら、団体行動に支障をきたしていたか、必死についていこうとして足がもつれて転倒するかしていただろう。登山がらみのツアーに入るときは、自分のレベルをチェックしてから参加がマストだな、という教訓を得た。

写真はほとんどミュアヤンくんの後ろ姿である。ついていくのが必死だった記録と言えよう。

私は日本で登山なんて数えるほどしかやったことがないけれど、眺めやコースそのもののクオリティでいえば、日本にも同じように美しい場所はたくさんあるのかもしれない。が、360度どこに目をやっても、人っ子一人いないという静かな登山風景は珍しいようにも思う。

季節がよく、アクセスもよく、難易度も手軽な山なのにツーリスティック過ぎない、というのが、あるいはアルバニアにおけるトレッキングの魅力の一つなのではないかと思った。絶景を独り占めできる喜びとでも言うのだろうか。どんなに素晴らしい場所でも人の数で印象は変わってしまうものだ。

あとで聞いたら、山岳地帯の住人とはいえアルバニア人やコソボ人にはまだあまり「登山」というカルチャーが浸透していないのだとか。「すぐ近くに山はあるけど基本的に住人はあまり登らない。登っているのはツーリストだけ」なんだそう。

そう考えると日本人はけっこうな登山好きなのかもしれない。同じように山だらけの国に住んでいても、文化が違うのだ。

トレッキングを始めて1時間半くらい経っただろうか。高低差でいうと900mくらい登った地点に、何やら人気を感じる建物を発見。

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山羊飼いとかが使う施設らしい。今の季節は当然ながら誰もいないし山羊もいない。でも何かあったら避難場所にできそうだ。ちなみにここあたりの通信環境は完全に圏外。助け、どうやって呼ぶのかしら…。

建物の上を見上げれば、うっすらと雪が残るはだかの山肌がずっと続いている。

半ズボンの若者が、ヘイヘイーこっちだよー、と叫んでいる。彼の背後に広がる風景を見ると、この先頑張って登ってもそれほど目にする風景も変わらないのでは……と正直思ってしまう私。そしてついに意を決して大声で叫んだのだ。

「もう帰りたいー!」

ミュアヤンくんは私のギブアップの叫びを聞くと、スタスタと降りてきて、「予定より30分くらい早いけど、ま、いいか。よし戻ろう」と賛同してくれた。助かった…!

我々はくるりとUターンをして下山を始める。

下りは心臓への負担は減るが、膝や股関節へのダメージは強まる。膝が笑ってしまって気を抜くと転げ落ちそうである。ちょ、半ズボンくん……待って……。

などと弱音を吐きながらも無事下山。往復3時間くらいのトレッキングコース、やり遂げました!!

山を下りると水量の少ない河原に出る。橋がわりに架けられた板を使って乗り越えていく。

山を降りてようやく第一村人発見!  かと思ったが英語を話していたのでツーリスト。イギリス人か、アメリカ人か。

何やら愚痴が多すぎたきらいもあるが、人っ子ひとりいない、家も村も何もない、手付かずの自然を満喫できて本当に素晴らしい体験になったし本当に行ってよかった。

宿に戻ってすぐランチタイム。

この日のメニューはバタータイスといろいろ野菜のソテー添え、さっぱりとした山羊のチーズ入りのサラダ。この宿の料理は初日の夜を除けば、基本的にベジタリアンのようだった。でもこれがすごく美味しい。バターライスのバターの香りの素晴らしかったこと。なんでも、すべて自家製の素材を使うことにこだわっているようだ。

ゲストハウスのドアに掲げられていた「地元の食材しか使ってません」マーク。

半ズボン男子はちょっと目を話したすきにランチを完食していた。飲んだのか!?  的な早食いである。こういうところは日本の体育会系男子と一緒でほほえましい。
個人的にヨーロッパで男子が食事をがっついているシーンを見たことがなかったので(会話を楽しみながらカチャカチャ、みたいな人しかいないエリアだと思っていた)、地味に感動したひとこま。

私は正直もう一歩も動けないレベルに疲れ果てていたのだが、ミュアヤンくんは近所のコンビニ帰りくらいの元気さである。若いってすごい。そして一息つくと、彼はこんな提案を持ちかけてきたのだ。

「午後がまるきり空いちゃったから、サイクリングでもする?」

ということで、ライフはゼロなはずの私が老体に鞭打ってヴァルボナでサイクリングしてみた日記に続きます……。

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