「ヨーロッパ最後の秘境」などと言われることもある南東欧のアルバニア。
主な観光資源は山や海などの大自然と史跡ですが、唯一のお買い物好き女子におすすめのスポットと言えるのは、首都ティラナから日帰りで行ける山城のある「クルヤ」。
ハンドメイドの逸品がリーズナブルに買えるオールドバザールは石畳の小径もフォトジェニック。史跡や絶景も楽しめるよくばりな場所なんです。
アルバニアの首都ティラナからクルヤへは安いバスも出ているけれど、バス停はまちの外れだし、時間通りに来るかも謎だったし、サイトにも「時間が変更する可能性あり」みたいな注意書きがあったので、思い切って送迎&ガイド付きの1日90ユーロの日帰りツアーに申し込むことにした。
もうバックパッカーじゃないし、わずかな日程で来ている失敗が許されない働きマンなのでここはお金で解決だ。
90ユーロと言うと物価が日本の3分の1以下くらいのアルバニアでは結構な値段なので、最小催行人数もなく、前日にホテルのフロントを通して予約したら即決となった。
要は客は私ひとり、完全プライベートツアーである。今回の旅でもうひとつ3日間のヴァルボナ渓谷ツアーにも申し込んでいたのだけれど、それも申し込み人数1人でも実施になったので(とはいえ目的地付近で別のツアーに混ぜられたので完全プライベートツアーではなかったけれど)、一人旅にはなかなか使い勝手の良い国である。
最初に写真を見せてしまうと、本日の旅の目的地はこんな場所。
手仕事好きの女子ならこの風景を見ただけで「行きたい!」と思ってしまうはず。実は私も、UKOARAちゃんの記事「悶絶級にかわいい「クルヤ」のオールドバザール」を見て、胸熱になったクチ。アルバニアに行くならマストゴーと思っていた場所でした。
■ティラナからクルヤまでの道のり
ティラナのホテルまで送迎に来てくれたツアー会社のドライバー兼ガイドは30代くらいの男性で(ここからは便宜上ベラトさんと呼ぶ)、ホテルのレセプションとしてヨーロッパ各地で働いていたというキャリアの持ち主。観光業界歴が長いだけあって物識りだし親切。質問するとたいていのことには答えてくれる。
たとえば、アルバニア到着後、空港からティラナ中心地へ向かう途中に見かけた衝撃的な風景。
あきらかに爆撃を受けたような一角で、「何かの紛争で被害を受けたのだろうか。やはりここはバルカン……」としんみりしていたのだが、クルヤへのワンデートリップの途中、ふたたび前を通ったので、ベラトさんに破壊の理由を尋ねてみると、
「あー、これは高速道路を作るために拡張工事をしていて、周辺の建物を壊してるんですよ」とのこと。何だよ!!
まだ人が暮らしているような状態で爆破しちゃうのもびっくりだが、瓦礫の中で普通に暮らしているアルバニア人もたくましい。
道すがら、ベラトさんはアルバニアについて教えてくれた。
「アルバニアの産業の第一位は農業ですが、第二位は観光産業。日本では観光地として人気がないみたいだけど、物価が安くて海や山などリゾート地も多いのでヨーロッパの人々、特にドイツ人とイギリス人に人気なんです。夏のビーチなんかすごい人ですよ。貧しい国とはいえ、もう10年ぐらい経済成長も続けています」
そして、途中通過したフシュ・クルヤという町では、こんなコネタをくすくす笑いながら教えてくれた。
「2007年に欧州を歴訪していたアメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領がこの町に立ち寄ったんです。ここはティラナ空港から近いですから。ブッシュ=フシュという名前の近さもあってか、この町の人々は大歓迎。その後、ジョージ・W・ブッシュの銅像まで作ってしまったんですよ。さらにジョージ・W・ブッシュという名前のベーカリーやカフェもあります」
なにそれ面白い!というと、わざわざ銅像の前で車を止めてくれたので一回来ただけの大統領の勇姿をパシャリ。
あとで知ったのだが、首都ティラナにある通りの名前にもジョージ・W・ブッシュの名がつけられていた。とにかくアルバニアは大の親米なのだ。
■クルヤに到着!
共産政権時代に作られた安普請のコンクリートビルが多いティラナからくると、ぐっと風情があるクルヤの町。それもそのはず、ここはティラナよりずっと長い歴史がある国の英雄スカンデルベグゆかりの地。今も中世の城壁が残るアルバニアが誇る観光名所だ。
このスカンデルベグ、アルバニアを旅するなら絶対知っておいたほうがいい超重要人物なのでここでざっくりとプロフィールを紹介しよう。何しろあちこちに銅像があり、お札にもなっており、国旗に描かれた双頭の鷲もこのスカンデルベグの家紋が由来である。
15世紀から20世紀初頭までオスマン帝国の支配下にあったアルバニア。紀元前はローマ帝国、その後はビザンチン帝国、かと思えばオスマン帝国と、常に近隣の大国に占領され従属を強いられてきたアルバニア史の中で、一瞬の奇跡のような輝かしい時代を築いたのがスカンデルベグだ。
1405年、アルバニア中部の領主の子として生まれたスカンデルベグ(本名 ジェルジ・カストリオティ)は、子どものころ人質としてイスタンブールへ送られ、彼の地で軍事教育を受ける。
その勇猛さから帝国内で頭角を表し、ついにはオスマン軍の司令官としてアルバニアに赴任。オスマン帝国は、わりと実力主義で植民地の国の出身者も出世できたりしたのだ。
1443年、彼はこのクルヤの土地で突如オスマン軍に反旗を翻しトルコのスルタンに勝利、その後、約25年間、アルバニアの独立を勝ち取ったのである。
幼少期から今川義元の人質として育てられ、桶狭間のあと故郷の岡崎城に入るや今川から独立を企てた徳川家康を思わせるエピソードだ。
アルバニア最大の英雄がレジスタンスの拠点とした栄光の土地クルヤに来たならば、まずは城壁の中に足を踏み入れてみよう。
城内にある観光資源のひとつが、スカンデルベグに関する資料を展示しているミュージアム。
展示品に興味がない人でも楽しめる、絶景のバルコニーもあるので、ぜひ足を踏み入れてほしい。
博物館前に残る石垣は5〜6世紀くらいのものだとか。そのほか、トルコ風浴場ハマムや民族博物館などもある。
城内を見学したあとはお楽しみの手仕事のお店が連なるオールドバザールでお買い物をするか、
オールドバザールに隣接する4つ星ホテル内の絶景レストランでランチを楽しむのもいい。
高級ホテル然としているけど、パスタが500円くらいというアルバニア価格のリーズナブルなレストランです。
なお、オールドバザールでのお買い物について詳しく言及すると長くなるので、次回お届けするとして、今回はさらにディープなクルヤ観光をご紹介したい。
100円のバスで来なくてよかった!とつくづく思ったのは、山頂のディープな史跡にまで車で連れていってもらえたこと。ふつうバスで来たらクルヤ城址とオールドバザール見物でジ・エンドなのだけど、実はこのスピリチュアルな山には知る人ぞ知る名所があるのだ。
■クルヤ山頂にある絶叫スポット、神秘主義教団の聖地。
クルヤ城から先は、切り立った岩山沿いの曲がりくねった道を行く。
約20分も走ると、駐車場もある山頂に到着する。車を降りればそこは……
絶景!!
というか、晴れた日にはアドリア海まで見渡せる絶壁。高所恐怖症の人は正直無理な感じの眺めです。
「ここにはベクタシュ教団の聖地とされている洞窟があるんです」とベラトさんは言うと、足がすくむほど急な階段をすたすたと降りていく。
ベクタシュ教団について詳しくはWikipediaをご覧いたただきたいが、簡単に言うとアルバニアやバルカン半島、トルコなどで支持されたイスラム教の神秘主義哲学の教団。
洞窟の入り口。
「あの、私イスラム教徒じゃないけどこういう聖地みたいなところに入ってもいいのかしら?」とベラトさんに聞くと、「全然問題ない。僕もクリスチャンだし。普通に家族の幸せとかお願いすればいいんです」とのこと。
そういえば、アルバニアは共産政権時代に宗教活動を禁止していたせいか、宗教に関しては寛容、というかゆるく、日本人と感覚が似ているのだという。データ上はイスラム教徒となっている人のうち7割以上はモスクに行かない、なんて語るガイドさんもいる。
洞窟へ入ると、ベラトさんは私にお願いごと用のろうそくを手渡してくれた。ありがたく頂戴し、火をつけ無病息災などを祈る。そういえば山頂の駐車場でベラトさんが道端で何か買っていたのだが、この洞窟でお願い事をするときに使うろうそくを買っていたのだった。お願いごとをするなら洞窟へ降りる前に購入をお忘れなく 。
なんとなくこの風景、既視感があるな……と思ったら、鎌倉の長谷寺の弁天窟にちょっと似ているのだった。「日本でも洞窟に入って、ろうそくに火をつけてお願いごとをするお寺があります。私達は近い文化を持っているのかもしれないですね!」とベラトさんに伝えると、なんだか嬉しそうだった。
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トリッププランナー編集長。 これまで行った旅先は世界40カ国、うち半分くらいはヨーロッパ。興味関心のあるテーマは歴史と建築、自然。一眼レフ好きだったが重くて無理になりつつある今日このごろ。