ヨーロッパアルプスの東に位置する、イタリアのドロミテ。
ドロミーティとも呼ばれる、標高3000メートル級の切り立った岩峰が連なる世界屈指の絶景スポットだ。その独特の景観から、2009年に世界自然遺産にも登録されている。
以前雑誌で見てから、一度は行って、美しい山々を眺めながらトレッキングをしてみたい…と思っていた場所の一つだ。
とはいえ、何しろ日本語の情報が少ないし(もちろん「るるぶ」や「ことりっぷ」などのガイドブックには紹介されていない)、「ドロミテ 行き方」で検索しても、これ!という正解がパッと出てこない。絶景系の書籍を開いてみれば「ミラノから車で行くしかない」と書いてあったりする。ええー、イタリアで車の運転とか無理無理!
…と諦めかけていた2023年の夏。安心してください! タイトルにあるまんまの質問を、ドロミテの宿にメールしたところ、一人だろうが女だろうが難なく行けることが判明。
今回はざっくりと公共交通機関を使ったドロミテの名所への行き方とトレッキングの難易度を紹介。スポットごとの個別のレポートはまた改めて。情報は2023年夏の最新版です!
・そもそも、ドロミテってどこらへん?
まず情報収集のファーストステップでの間違いは、「ドロミテ 行き方」というワードで検索していたこと。
実はドロミテはイタリア北部、総面積約23万キロ平方メートルにおよぶ広大なエリアを占めるので、「ドロミテへはどうやって行くの?」という質問は、「日本アルプスへはどうやって行くの?」くらい大雑把だったのだ。日本アルプスのどこへ行きたいのよ!? から始めなければならない。
たとえば、ドロミテで最も有名なチンクエトッリ(3つの頂、という意味)へ行きたいなら、東の玄関口と言われるコルティナ・ダンペッツォを選ぶといいだろう。ベネチアからは直通バスも出ている。
しかし、私は写真集で見てひと目で心惹かれたアルペ・ディ・シウジ(シウージ高原/ Alpe di Siusi)に行って見たかったので、ドロミテの西の玄関口と言われるボルツァーノ(Bolzano)のほうが近い。まずはどこへ行くかを決めてから公共交通機関を探そう。
ボルツァーノはヴェローナから鉄道で1時間半程度で着く人口約11万人程度の中都市。ヴェローナはミラノとヴェネツィアの間くらいにあるので、どちらかの都市から列車で向かおう。そこで乗り換えればあとは一本だ。
ちなみにヴェローナもとても美しく、乗り換えだけではもったいない街なので(ロミオとジュリエットの舞台として有名)、一泊して行くのもいい(私はそうした)。
関連記事⇒イタリア・ヴェローナのシンボル、古代ローマ時代の円形劇場で野外オペラを鑑賞してみた。
・ドロミテの西の玄関口、ボルツァーノからドロミテの山々へ簡単に行ける?
さて、問題はボルツァーノ駅からアルペ・ディ・シウジなどのドロミテの名所までどうやって行くかだ。
色々検索してもいまいち確かな情報がヒットしなかったので、とりあえず、シウージ高原の近くの適当な宿を予約してから、メールで問い合わせてみることにした。
「今度、女ひとりでそちらの宿に宿泊するのですが、公共交通機関だけで宿まで行けますか? また近くのシウージ高原などの名所をトレッキングしたいのですが、一人で山を歩くことは危険ではないでしょうか?」
なぜこんなにビビっているかというと、日本でも低山を中心に登山を楽しんでいた私は、奥多摩や、何なら高尾山ですら、遭難事故があったりすることを知っているし、山へ一人で行くことは避けてきたからだ。
しかも、写真で見る限りドロミテは見るからに難易度が高そうである。
すると宿からすぐにこんな返事が来た。
「ドロミテはとてもツーリスティックな場所であり、あなたは完全に公共交通機関だけでどこへでも行けます。こちらの宿へはボルツァーノ駅から30分ことにバスが出ています。有名な場所にはたいていケーブルカーがあり、あなたは安全に山頂近くまで行けます。登山道は整備されており、たくさんの観光客で賑わっています。一人で歩くことに何の問題もありません」
・ボルツァーノから公共交通機関とケーブルカーで行ける、超有名スポット3選。
結論から言うと、宿のオーナーからのメールは完璧に正しかった。
私はドロミテに滞在中、バスやケーブルカーで簡単に絶景スポットへ行くことができたし、それらの便もびっくりするくらい本数が多かった。
一応登山ということで、登山靴に雨具、ライト、寒くなったときのためのダウンや行動食までばっちり備えてリュックを担いで行ったのだが、正直言って、今回行った3箇所は整備された登山道を歩く限りは難易度はマザー牧場程度で(むき出しの岩肌をロッククライミングしたり、マニアックな登山ルートを行く人は別ですよ!)、「こんなんなら、普通のスニーカーにジーンズでもいけたんでは…」とあとから思ったくらいだった。今回の旅で気づいたのは、日本の山は全般的に難易度高いしタフすぎる。500m程度の低山でも死にそうにキツイもんなぁ…。
と、いうことで、今回はボルツァーノから行くドロミテの至宝3選を紹介したい。車の運転も、登山経験も無用な場所ばかりですぞ。
1. カレッツァ湖(Lago di Carezza)
「ドロミテの宝石」と呼ばれるエメラルドグリーンの湖。ボルツァーノ駅から180番のバスで約45分でらくらく到着。バス代は片道2.5ユーロくらい。Karer Seeのバス停で下車すぐ。
よく、イタリアのバスは車内で切符が買えない、といったブログがあるけど、ドロミテでは大抵車掌さんが売ってくれた。ただし現金のみ。クレジットカードは使えないので注意しよう。
バス停の目の前がすぐ湖で、きれいに整備されたほぼ平坦な遊歩道を歩いて湖の周りを一周できる。子どもやお年寄り、なんなら小型犬ですらのんびり散策を楽しんでいた。
バス停付近にはトイレや売店、食堂も完備。ここを起点にいくつか登山ルートがあるのでそこからトレッキングをしたい人はそれなりの装備が必要だが、湖の周りを歩くだけなら軽装で全く問題なし。
⇒さらに詳しいレポート記事「歩く難易度は井の頭公園以下? イタリア「ドロミテの宝石」カレッツァ湖で絶景トレッキング」
2. セチェーダ(Seceda)
このエリア屈指の人気トレッキングスポット、標高約2,500mを誇るセチェーダ山。これぞドロミテ、といった、切り立った険しい岩肌を間近で鑑賞できるスリル満点の絶景スポットだ。
ボルツァーノ駅からは170番のバスでKasterlruth駅へ行き、172番に乗り換えてOrtisei駅下車。所要時間は約1時間半。バス停からSeceda山頂へのケーブルカー乗り場までは歩く歩道等を抜けて簡単に行ける。
さて、公共バスはたいてい一回の乗車が2−3ユーロ程度(後述するがドロミテエリアの宿に泊まると使い放題のバスチケットがもらえるので私の場合は実質タダ)だが、ケーブルカーが鬼高い。たとえば、OrtiseiからSeceda山頂までの往復料金はなんと39.5ユーロ(2023年8月時点の為替で約6,200円!)である。
ベネチアからボルツァーノまでの3時間程度の鉄道料金が30ユーロくらいだったのでそれよりも高い。乗ってる時間は10分程度なのに!
しかし、自力で登るにはセチェーダはあまりにも急峻だし、ここはディズニーランドだと思って、ケーブルカー代はケチらず使おう。自力で行こうとすると難易度も疲労度も猛烈にアップする。
ぼーっと景色を見ているだけで、こんな絶景スポットに到着。写真だけ見るとものすごく難しい登山中のようだが、基本はケーブルカーに乗っていただけである。
急峻な岩肌に沿うように遊歩道が整備されており、岩山の上のほうまで登るつもりがなければ、難易度はマザー牧場程度。でもみんな、わりとばっちり登山服を決めていたんだけど、ここを起点にどこか難しいところへ行くつもりなのか、せっかくなので登山気分を盛り上げるためか、あるいは私みたいに難易度を間違えてやってきた系かは不明。
⇒さらに詳しいレポート記事「標高2518m、イタリア・ドロミテの超名所セチェーダ山に登ってきました(ケーブルカーで)」
3.アルペ・ディ・シウジ(Alpe di Siusi)
さて、セチェーダでのトレッキングを楽しんでまだ午後2時ぐらいなら、その足でアルペ・ディ・シウジまで行ってしまおう。ケーブルカーでOrtisei駅まで戻り、徒歩10分ほど歩くと、アルペ・ディ・シウジ行きのケーブルカーの入口があるのだ。
シウジ高原行きのケーブルカー乗り場。地図はこちら。
ここでは片道だけ購入する(それでも19ユーロ!)。なぜならアルペ・ディ・シウジをなだらかに下り、もう一つのケーブルカーに乗れば、ボルツァーノ方面へ戻るバス停があるからだ。
広く遠く、どこまでも続くなだらかな草原と急峻なドロミテの山々。優しさと厳しさのコントラストが美しい人気の絶景スポットである。私をドロミテへと誘った風景だが、この日は雲が出て厳しい山々を隠してしまったのが残念。
アルペ・ディ・シウジは午前中に行くと山側が逆光になるので、行くなら午後2時以降がおすすめらしい。本当は日が暮れる時間がより幻想的らしいのだが、ケーブルカーもバスも午後6時をすぎるとなくなる感じだったので断念(夏は日没が夜9時ぐらいなのでさすがにそこまで待っていられない)。もし日没間際のアルペ・ディ・シウジを写真に撮りたかったら、シウジにある宿を予約するのがいいだろう(だが高い)。
さて、ロープウェーを降りたら、GoogleMapで目的地をコンパッチョ(Compatsch)のバス停付近にセットし、あとはのんびり下っていこう。
アルペ・ディ・シウジは6月から7月はじめくらいの間は花が咲き乱れ、「ヨーロッパで一番広いお花畑」なんて言われたりするそうだ。私が行った7月末は、花はそれほど多くなかったが、何しろ夏のバケーションシーズンということで家族連れがいっぱい。なだらかな丘陵を電動自転車で走るのが人気のアクティビティらしく、下山中は常に誰かが自転車で横をサッと抜けていく感じで、山の恐怖感ゼロ。
何度も申し訳ないがこちらも難易度はマザー牧場程度である。
コンパッチョに着いたら、そこからさらにケーブルカー(Seuser Alm Bahn)に乗れば、170番ルートのバス停Seis付近に簡単に着く。そこからボルツァーノまでバスで戻ろう(170番のバスは夏は結構遅くまで運行している)。なお、多くのケーブルカーの最終乗車が18時から19時あたりなので乗り損ねないように注意。
・ドロミテ観光ではボルツァーノに泊まるべき?
さて、最後にこの3つの名所を回るとしたらどこに泊まるべきかについて語りたい。
鉄道の駅があるボルツァーノにはユースホステルなどもあるが、正直せっかくドロミテまで来て、小都市に滞在するのはいささかもったいない。170番など本数の多いバスルート沿線の小さな村に滞在してみるのが、いかにも南チロルの旅、といった体験ができておすすめだ。
たとえば、私が滞在した宿は、170番ルート沿いでボルツァーノからバスで約20分程度のVols, Kreisverkehrという停留所付近。バス停前には旅行案内所もあるし、スーパーマーケットもあるし、レストランも充実。そして村の眺めはこんな感じである。
シウジやセチェーダまで足を伸ばさずとも、この村からの眺めだって十分絶景。のんびり村の近隣をぶらぶらすればツーリスティックに過ぎないドロミテの一面にも触れられるだろう。
関連記事⇒ドロミテへハイキング旅行ならどこに泊まるべき? 選んでよかった、かわいい村をご紹介。
ちなみにドロミテエリアの宿に泊まると、公共バスの多くが無料になるチケットがもらえたりするので、ケーブルカーは鬼高いけど、それ以外の移動費はほとんど無料である。移動しまくってもあまりお金はかからないので、ぜひ小さな村に泊まってみよう。
来てみるまでは「ヨーロッパの秘境」とすら思っていたドロミテ。実はすごく簡単にトレッキングが楽しめる一人旅にも優しい絶景スポットだった。宿のオーナーも私の心配性すぎる質問メールに苦笑しながら返信したに違いない。
バスやケーブルカーの本数も多いし、遊歩道は観光客がいっぱいで安全だし、初心者ならまずは夏に旅するのがいいかもしれない。思ったより宿代も高くなかった(バス・トイレ付きのホテルのシングルルームが朝食付きで一泊80ユーロ程度から見つかる)し、夜は冷房いらず。
天気予報は毎日雨だったが、滞在中はほとんどずっと晴れていたので(降っても一瞬だった)、あまり気にせず、真夏のドロミテで、のんびりトレッキングを楽しんでみては?
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トリッププランナー編集長。 これまで行った旅先は世界40カ国、うち半分くらいはヨーロッパ。興味関心のあるテーマは歴史と建築、自然。一眼レフ好きだったが重くて無理になりつつある今日このごろ。