みなさんは、神社の狛犬に注意を払ったことがありますか? あまりにも当たり前にいて、素通りしてしまう人も多いかもしれない狛犬に惹かれ、ついに専門書まで出版してしまったライターのミノシマタカコさんに、そもそも狛犬とは何なのか? 何でそれほど惹かれるのか?について話を聞きました。彼女が偏愛する日本のマニアックな狛犬スポット5つも要チェック!
――まずはじめに基本から。そもそも狛犬って何ですか?
正式名称を「獅子・狛犬」といって、神社の参道や拝殿の中などにいる神獣です。通常、片方が口を開き、片方が閉じる「阿吽」スタイルになっています。
文献上では、平安時代末期から、貴族の調度品として用いられていることがわかっています。最初は木造の狛犬から始まり、徐々に屋外へ出るにつれて、風雨に強い石などの素材が使われるようになりました。
様々な素材の狛犬さんがいますが、私が追っているのは参道狛犬と呼ばれる、神社の参道の石の狛犬になります。
――彼らの役割は何でしょうか?
尊いものを守るというのが大きいのではないかと考えています。獅子・狛犬はもともと平安時代の貴族が御簾の前に置いた調度品です。天皇など尊い人たちを守るために置かれていました。それが神社やお寺などに移り、神さまを守るまえに置かれたのではないかなと。民家や村を守るために置くシーサーとの違いでもありますよね。狛犬は基本、家に置かない…(マニアを除く)。
――なぜ狛犬に惹かれるのでしょうか?
昭和初期以前は石工さんの手彫りで作られてきたため、作品ごとの個性があります。また地域や時代によっても流行があるため、地元と出かけた先で違う作風のデザインと出会えるのも魅力。近隣のコピー作品も多く、見比べるのも楽しみのひとつ。いい意味で、正しくコピーできていない作品に出会うと、ほっこりしますよ。
――これから狛犬鑑賞を始めたい人のために、鑑賞ポイントを教えてください。
全体の形やお顔は、真っ先に目に入ると思います。加えて、尾や毛並みのデザインも個性豊かでオシャレなので要チェック。
歴史が好きなら、ぜひ台座を。いつ、どこの街の誰が奉納し、誰が作ったのかなど書かれていることも多いため、地域の歴史を知る上での手がかりになりますよ。台座に彫られている人の名前を検索したら、金を貸した記録に出くわしたり、有名人につながったりすることもありました。
■「狛犬さんぽ」著者が選ぶ、忘れられない5つの狛犬。(写真・文:ミノシマタカコ)
愛知県 東郷町 白鳥神社
室町時代にはあったとされる神社。本殿前には「岡崎型」と呼ばれる狛犬さん(1928年奉納)。こちらも魅力的ですが、心奪われたのは末社のひとつ「御嶽神社」の前にいらっしゃったビー玉の目を持つ個性的な狛犬さん(奉納年不明)。小さな体はコンクリート製、阿形の瞳はオッドアイになっているという、なかなかおしゃれな一対です。威嚇している雰囲気ゼロのキュートな佇まいは、癒されること間違いなしです。
⇒ 白鳥神社
広島県 尾道市 むかいしま厳島神社
尾道駅の前にある船着き場から、船に乗ってすぐ。向島にある神社には、狛犬ファンを虜にしている手水鉢があります。
1836年奉納のこちらの手水鉢の見どころは、なんといっても大きな球体。尾道の石工は球体が得意だったとはいえ、これほど大きく美しい球体の手水鉢を彫り上げた手腕はさすが。その上でくつろぐ獅子の愛らしさもたまりません。
後ろ側にまわると、広がる尾やまるまったかわいい背中の様子もよく見えます。360度楽しみたい名作です。
静岡県 静岡市 久能山東照宮
徳川家康公を祀る最初の東照宮として知られる久能山東照宮。境内にある久能山東照宮博物館前にひっそりと置かれているのが1647年に奉納された丸顔をした大型犬のような狛犬さん。きっとかつては阿吽の形で置かれていたと思われますが、現存するのは阿形のみとなっています。愛嬌あるお顔だけでなく、全身のバランスも違和感なし。何百年も前に作られたと思えない、ぬいぐるみのような愛らしさも魅力です。
香川県高松市 冠櫻(かんえい)神社
縁結びやパワースポットとしても名高い冠櫻神社には、様々な足止めを祈願する「足止め狛犬」さんがいらっしゃいます。狛犬の足に紐をつけて足止めを祈る信仰は各地にありますが、とめる紐は神社によってさまざまです。こちらは写真にも映える赤い鈴がついたかわいい紐なのが特徴。高い場所にあるので、結ぶのは大変ですが、それだけ願いをかなえてくれるような気持になります。
⇒ 冠纓神社
佐賀県 有田町 陶山(すえやま)神社
有田焼の産地に鎮座する陶山神社。日本一大きなブロンズ狛犬さんも素敵ですが、乙女心をくすぐるのは白×青が美しい有田焼の巨大狛犬さん。
台座には蝶や花が描かれており、乙女度がさらにアップ。
境内には白×青の灯篭や鳥居もあり、陶器の里らしい美しい境内となっています。授与品も陶器製がいっぱい。白×青のさわやかなアイテムたちはどれを購入しようか迷ってしまいますよ。
⇒ 陶山神社
<取材協力>
ミノシマタカコ。ライター、ウェブ編集、狛犬愛好家。日本参道狛犬研究会会員。Facebookで「狛犬さんを愛でる会」というグループを主宰。自著に『狛犬さんぽ』(川野明正先生監修/グラフィック社刊)。