チャーチルや、J・P・モルガン、日本では白州次郎が通ったロンドンの「スーツの聖地」・サヴィルロウ最古のテーラーであり高級スーツの老舗、ヘンリー・プール。ふだんは入ることの出来ないアトリエで、胸が熱くなるものづくりの現場に出会いました。
イギリスというより、世界のスーツの歴史を作ったといっていい、ロンドンのサヴィル・ロウ最古のテーラーヘンリー・プール。お店があるサヴィル・ロウは日本の「背広」の語源にもなっていて、「スーツの聖地」と呼ばれています。
サヴィルロウ=せびろ、わかりやすい。
チャーチル、ナポレオン三世、エドワード7世、J・P・モルガン、日本では昭和天皇や吉田茂、白洲次郎など、その顧客リストには歴史に残る世界のセレブリティの名が連なり、店内は一部ミュージアムのようになっています。
ちなみに二代目であるヘンリープールはイブニングジャケット(今でいうタキシード)を考案したそうで、当時としてはかなり先進的なクリエイターでありデザイナーだったよう。
チャーチルが愛用したことで世界的に有名になったフランネルのチョークストライプのスーツは今も変わらず人気で、このスーツを着ていると、ロンドンのジェントルマンズ・クラブでは「あ、チャーチルのストライプだね」と声をかけられるそう。
ちなみにここでスーツを仕立てる場合のお値段の相場は、一着約4,000ポンドから(日本円にすると約73万円ほど)。
……正直言って、自分にはまったく縁のない、どこかの社交界の、あるいは世界のビジネスエリートたちのためのお店であり、足を踏み入れることなどないと思っていた別世界中の別世界です。
けれども、今回取材ということで特別に地階の縫製工場を見学させてもらって、異国の遠い遠い存在だったと思っていたお店が、たとえていえば老舗の日本橋の鰹節店のような、あるいは京都の織物店のような、とても近しい、自分が良く知っている世界のように感じられたから不思議です。
どこかの博物館に納めてもいいくらいの年代物のミシンやアイロンを手にスーツを縫う職人さんたちの多くは、もうおじいさんと呼んでいい年代。 「機械が変わるとかえっていい仕事ができなくなるんだよ」と七代目当主のサイモンさんは説明します。仕事中のスタッフにも暖かい言葉をかけ、それに笑顔で答える職人さんたちの間に流れる空気は完全に「ファミリー」。
孫やペットの写真を自分の作業机に飾り、楽しそうに働く職人さんたちの姿は、ちょっと涙が出るほど感動的。ここ、サヴィル・ロウで創業者一族が今も経営しているテーラーはわずか2店のみということで、ファミリービジネスならではの暖かさと愛を感じます。
縫製などの仕事が発展途上国の安い労働力に移動している昨今の風潮からすると、今もロンドンの一等地で、昔からの職人を抱えてもの作りを続けていることはまるで奇跡のよう。ヘンリー・プールは、ロンドンきっての老舗として、その作り手との関係性を含めて英国スーツの歴史を守り続けているのです。
本当の高級品は愛で出来ているんだな、と感じる、とても心温まる取材になりました。紳士はいつかはここでスーツ、と目標にして働くのがとてもおすすめです!
・参考文献:英国王室御用達-知られざるロイヤルワラントの世界 (平凡社新書)
※マンチェスター&ロンドンの旅
キャセイパシフィック航空と英国政府観光庁が共同でブロガーやオンライン旅メディア運営者を対象に参加者を公募した旅企画。トリッププランナーも選出され、2015年 1月30日から2月5日まで旅してきました。
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トリッププランナー編集長。 これまで行った旅先は世界40カ国、うち半分くらいはヨーロッパ。興味関心のあるテーマは歴史と建築、自然。一眼レフ好きだったが重くて無理になりつつある今日このごろ。