バルセロナのガウディ作品のうち、サグラダ・ファミリアと人気を二分するのが世界遺産「グエル公園」である。バルセロナの街を見下ろす高台にある15ヘクタールもの(東京ドームの約3.2倍)公園の中には、「世界一長いベンチ」と呼ばれるモザイクベンチが囲む広場や、おとぎ話の砂糖菓子のような建物、ガウディが実際に暮らした家など、見どころも多い。

実はこの公園、もともと約60戸が入る広大な分譲住宅地を目指していた。ガウディのパトロンだったグエルが出資し、1900年に着工したものの、その奇想天外すぎるデザインゆえか、なんと売れたのは2戸のみ。うち1軒はガウディが自ら購入して暮らしたモデルハウスというありさまで、端的に言えばビジネスとしては大失敗したプロジェクトだったのだ。
そんな「負の遺産」になりかねなかった分譲地は、その後公園としてバルセロナ市民に開放され、今では世界中から観光客が押し寄せる人気スポットになっている。

『ガウディ よみがえる天才』(鳥居徳敏著、ちくまプリマー新書)によれば、この分譲地を結果的に公園にせざるを得なかったことを記者に問われたグエルは、投資した何百万ペセタという大金について「しかし、他により良い使い方でもあるのかな」と返したとか。かっこいいですな、これぞあるべきパトロンの姿!


この公園で最も驚く構造は、波打つベンチが印象的なギリシャ劇場と呼ばれる広場が、何本ものドーリス式列柱に支えられ宙に浮いていることだ。


ガウディは、古代ギリシャのデルフォイ神殿を再現し、これによりグエル公園を神域としたバルセロナを「世界の中心」に祭り上げることを目指していたと、前掲書の中で著書の鳥居さんは言う。
そうか、無邪気に「かわいい〜」などとはしゃいでいたが、ここはガウディの故郷カタルーニャへの愛が凝縮された神殿だったのか。そう思うと、ガウディが暮らしたあのつつましい家も、「神職の住まい」だと思えば合点がいく。
サグラダ・ファミリアの紹介記事でも触れたが、個人的にバルセロナ、ガウディ建築巡りで最も胸打たれたのが、グエル公園内にあるガウディが暮らした家だった。



建築会の巨匠の家としては非常にこぢんまりとしており、華美な要素はほとんどない。再現されているガウディの寝室などは、まるで修道士が暮らしていたかのような素っ気なさ。
晩年はサグラダ・ファミリア以外の仕事を断り、この質素な家から、仕事場であるサグラダ・ファミリアへ通勤、あとはミサなどに出席するだけ、という「聖人」ぶりだったというガウディ。
そんなエピソードを知ると、グエル公園という”神殿”から見下ろすサグラダ・ファミリアが神のような存在に見えてくる。


ガウディの空想力を楽しむテーマパークのように思っていたが、彼の宗教心やカタルーニャへの深い愛などを知ると、この公園はバルセロナを称える神殿のようにも、サグラダ・ファミリアを拝む遥拝所のようにも感じてくるのだった。
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トリッププランナー編集長。 これまで行った旅先は世界40カ国、うち半分くらいはヨーロッパ。興味関心のあるテーマは歴史と建築、自然。一眼レフ好きだったが重くて無理になりつつある今日このごろ。