「普通の観光客は来ない村祭りを見に来たら? 闘牛もあって面白いと思うよ」と、フランス人の友人に誘われて、フランス南部のモンペリエ郊外、ペロル村へ行ったのは2022年の夏のことだ。
それは本当に、今どき珍しい言葉どおりの、のどかな「村祭り」であり、(おそらく)近隣住民以外はほぼ誰もいないローカル感満載のイベントだった。
これからそこへ旅したい人がどれくらいいるかは不明だが、ぜひその貴重な体験談をシェアしたい。
■ モンペリエ、そしてペロル村について
モンペリエは、フランス南部、地中海沿岸地域にある人口およそ25万人の都市。フランスのエリート医学部として知られるモンペリエ大学医学部などがあり、学生の多い街として知られている。
そんな街からトラムに揺られること約30分、約8kmの位置にあるのが今回紹介するペロル村である。地中海と広大な沼のすぐ近くであり、その豊かな水資源ゆえに9世紀ごろから村があったという記録が残る。17世紀頃にはもう闘牛が始まったらしく、今では珍しい闘牛学校があるなど、闘牛の伝統が長く息づく村だ。
というと、古めかしい村をイメージしてしまうが、今ではこのあたりは南仏風のお屋敷が並ぶ広がる優雅な住宅街だ。一年中気候が温暖でビーチもすぐそばなので、雰囲気としては完全にリゾート。実際、私の友人宅もプール付きだったし。
■ ペロル村の夏祭りとこの地ならではの特殊な闘牛
そんなペロル村の夏祭り(Fête de la St-Sixte )は、毎年8月初旬に開催される。お祭り初日の夜に教会のあるエリアまで行くと、すでに白馬やら神輿やらが登場し、夕方にはもう賑わい始めていた。
教会から出発した守護聖人の像は、村を練り歩きながら、全2200席、1960年オープンの闘牛場へと入っていく。
その後は、派手な衣装のお姉さんたちが踊ったり歌ったり、花火が上がったりと大騒ぎ。そして、この夜のハイライトとも言えるのが、村の少年青年たちが楽しむ闘牛もどきのショーである。
一匹の子牛が彼らが待つ闘牛場に放たれる。逃げ惑う彼らを必死に追う子牛。
小さいとはいえやはり立派な角がある水牛なのでそれなりに迫力があるが、眺めているとのどかな追いかけっこという気がしないでもない。フランスの闘牛は牛を殺さず、牛の頭に付いている飾りを取る、というものだが、彼らはただひたすら逃げ惑うばかりで、じゃれあっているようでもあった。
「今日のはまぁオープニングデーのお遊びだから、明日、闘牛士による闘牛を見に来よう」と友人。そして、我々はふたたび闘牛場にやってきたのだった。
今度は大人の水牛であり相手はプロの闘牛士である。面白いのは、フランスの闘牛は牛と闘牛士の一対一ではなく、複数人で牛を追うところ。
この水牛がすごい暴れ方で、興奮極まると、闘牛士ではなく客席めがけて突進してくる。笑いながら鑑賞していると、柵を角で破壊し客席に飛び乗ろうとしてくるので客たちが慌てて逃げ出したりする。
心臓の弱いご婦人は悲鳴を上げ、子どもたちは大はしゃぎ。いやぁ、私の知らない村祭りの世界…!
そして、他に大してすることもない私達は、数日後再びこの闘牛場にやってきた。お祭りもクライマックスに近づくと、馬や牛が勢揃いするショーが行われるのだ。
そして、白馬に乗った男性による牛追いショーも披露される。追われているのがまだ小さな子牛なのがちょっと気の毒…。
3日通って堪能したペロル村の村祭り。そして友人の言う通り、おそらく観客のほとんどは、村人か、モンペリエ近郊に住む地元民か、その友人、知人であろう。飾らない普段のフランスを覗き見できた貴重な体験だった。
ペロル村のすぐ下には、地中海との間に橋のように細い陸地を挟んで広大な池があり(本当にユニークな地形だ…)、そこにはフラミンゴも飛来する。
白馬、闘牛、フラミンゴは、近郊のカマルグの名物として有名だが、ここモンペリエも似たような文化圏なのでもちろんそれらを見ることができる。村祭りを通じて、特に白馬と水牛がどれほどこの地域の誇りでありアイデンティティーであるかも実感することができた。
この村祭りは毎年8月に行われるので、機会があればこの時期にモンペリエを旅してみてはどうだろうか? 「おしゃれ」ではない酪農国としてのフランスの一面にも触れられるはずだ。
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トリッププランナー編集長。 これまで行った旅先は世界40カ国、うち半分くらいはヨーロッパ。興味関心のあるテーマは歴史と建築、自然。一眼レフ好きだったが重くて無理になりつつある今日このごろ。