その気候の良さ、大地の肥沃さから、古代よりフェニキア人、ギリシャ人がこの土地を巡って争い、その後はローマ人、ノルマン人、イスラム教徒にドイツ、フランス、スペイン…と次々と支配者が現れ翻弄され続けてきたシチリア。
その複雑な歴史を最も体感できるのが、シチリア東海岸の古都・シラクーサだ。イタリア人の発音ではシラクーザが近く、日本の観光ガイド等ではシラクサとも呼ばれることも。
このザ・ヨーロッパなバロックスタイルのシラクーザ大聖堂も、元はといえば紀元前5世紀に作られた古代ギリシャの神殿跡。
横に回れば、ご覧のようにギリシャ神殿の巨大な柱を見ることができる。そう、ここは古代ギリシャ時代、シチリアで最も重要なギリシャの植民市であり、あのアルキメデスが生まれ育った土地。今も街のあちこちにギリシャ遺跡が残る、人気の観光地なのだ。
シチリアというと未だマフィアのイメージが付きまとうが、ここシラクーザについては治安もすこぶる良好。むしろのんびりしすぎてうっかりカフェに忘れ物をしそうになるくらいであった。
もちろんシチリアなので魚介や農産物も美味。そんな美食と歴史の古都の見どころを、まずはざっくりご紹介!
■ オルテージャ島編
シラクーサの街は、大きく分けて、歴史地区である海沿いのオルテージャ島と、鉄道駅やバスターミナル、考古学公園などがある新市街に分かれるが、観光して断然楽しくフォトジェニックなのが、街全体が映画のセットみたいなオルテージャ島である。
主な見どころやレストラン、ショップもほぼこのエリアに集まっており街歩きも楽しい。まずはこのオルテージャ島の主な観光名所をチェック!
1. ドゥオーモ広場 ⇒ Map
冒頭でも紹介した、元はギリシャ神殿だったシラクーサ大聖堂のある広場。1693年の大地震のあと、1725年から1753年にかけて再建されたバロックスタイルの美しい大聖堂を中心に、「サンタルチア教会」(Chiesa di Santa Lucia alla Badia)や、貴族の館「ボルジア・デル・カサーレ宮殿」(Palazzo Borgia del Casale)などの観光名所がある。
広場に面したカフェもあり、優雅なバロック建築群を眺めながらお茶するのもいい。
大聖堂の裏手にある小道は、土産物屋、カフェ、レストランが連なる人気のストリート。オルティージャ島ならではの細〜い小道があちこちにあり、探検するのも楽しいのでぜひ。
2. メルカート(市場) ⇒ Map
オルティージャ島の新市街寄りにあるこぢんまりとした市場は、魚介、果物、スパイスやチーズ、サラミ、ジャムやクリームなど、美味しそうなものが並ぶおすすめスポット。
どれも新鮮で美味しそうだが魚介や果物の持ち帰りは…という人には、ドライトマトやアーモンドなどがおすすめ。
シラクーサの名物アーモンドや、シチリアといえばのピスタチオなどがお手頃価格で買えて、しかも絶品。ここで買ったドライトマトでパスタを作ったら、その出汁の旨味にびっくり。
空港等で買う値段の半額以下なのでお土産を買うなら市場がおすすめ。この市場の中には、具を詰め込みすぎていると話題の巨大パニーニの名店もあるので、胃に自信がある人はお試しを。
3. プロムナード ⇒ Map
海沿いにはレストランやカフェが並ぶ、人気の遊歩道が。
その近くには、ギリシャ神話にまつわる「アレトゥーサの泉」があり、ここも観光名所の一つ。
海の真横にありながら淡水が湧き出る神秘の泉には、川の神・アルフィオスに見初められたニンフのアレトゥーサがその純潔を守るため水に姿を変えて、ギリシャから地中海を渡り、この地に湧き出した、という伝説が残る。生い茂るパピルスの周りにはのんびり泳ぐアヒルの姿も。
4. マニアーチェ城 ⇒ Map
プロムナードをぶらぶら歩いて到着するのが、オルテージャ島の先端にある城塞。神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世・シチリア王フェデリーコ2世の命令により13世紀に築城され、彼が作った城の中で一番古いものの一つ。
個人的に驚いたのが、建物の中から見た水面ギリギリの風景。その荒々しい波の音を間近で聞くのはかなりスリリング。
オルティージャ島は端から端まで歩いても徒歩30分くらいの小さな島。観光名所もいいけれど、小道に迷い込んで思わぬ風景に出会うのが一番楽しい街という印象。
■ 新市街&ネアポリ考古学公園編
さて、オルティージャ島を離れ、新市街方面へ向かいましょうか。シラクーザ観光のハイライトの一つ、壮大なギリシャ遺跡のネアポリ考古学公園は、オルテージャ島からは歩いて30分ほど。バスやタクシーもあるけれど、徒歩が一番確実。
5. カラヴァッジョの名画も必見! シラクーサの守護聖人、聖ルチア殉教の地に建つ教会「Chiesa di Santa Lucia Extra Moenia」 ⇒ Map
日本のシラクーサ観光ガイド情報では、シラクーサ大聖堂の隣にある「サンタルチア教会」(Chiesa di Santa Lucia alla Badia)にカラヴァッジョの絵がある、と書かれているものが多いが、それは今や間違い。2020年からは元の場所、新市街のサンタルチア・エクストラ・モーニア教会(Chiesa di Santa Lucia Extra Moenia)に戻ってきているので、お間違えなく。
聖ルチア、または「シラクサのルチア」とは、自分に好意を寄せた男性との縁談を断り、キリスト教への信仰を貫いたことから、当時「異教徒」として目をくり抜かれるなどの拷問の末に殉教した乙女。その伝説から、目の保護者とされている。
そのルチアが処刑されたとされる場所に建つのがこの教会。
祭壇右側にある柱は、彼女は処刑された場所を示すもの。その背後にあるのがカラヴァッジョによる大作「聖ルチアの埋葬」である。
あちこちで殺人や暴力事件を繰り返し、イタリア中を逃げ回ったあとに、マルタ島を経て、ここシラクーザに逃げ込んだカラヴァッジョが残した絵。マルタ島にあるカラバッジョの大作「聖ヨハネの斬首」を所有する聖ヨハネ准司教座聖堂は入場料15ユーロだが、なんとこの教会は無料である。
この絵画が描かれるに至る、カラヴァッジョのやらかし人生については、山田五郎さんのYouTubeが最高にわかりやすいので、訪れる前に見ていくことを強くおすすめ。世界のアート史に残る天才なんだろうけど、間違っても付き合いたい相手ではないですな…。
教会の隣には、聖ルチアが埋葬されたとされる場所に建つ八角形の小さな教会も。
6.ネアポリ考古学公園(Parco Archeologico Della Neapoli) ⇒ Map
歴史ファンにとって、シラクーサ最大の見所と言っていいのが、この古代ギリシャ遺跡。ヨーロッパ最大と言われる巨大なギリシャ劇場や、闘技場、採石場や洞窟など、広大な丘がまるごと遺跡に覆われている。見学するには、ハイキング並の体力が必要かも、というスケールの大きさである。
このギリシャ劇場では、毎年5月上旬から6月にかけて古典劇が開催され、古代ギリシャのコスチュームをまとった演者たちがこの空間に溢れ、多くの観光客で賑わうとか。泊まった宿のオーナーも、「シラクーサに来るなら5月がベストよ!」と太鼓判。なんと100年以上も続く、シラクーサで最も重要なイベントの一つだそう。
個人的に感動したのは、古代の石切り場にある巨大洞窟。
この洞窟は、紀元前413年に起こったシラクーサとアテネとの戦争では、アテネ人の捕虜7000人を収容するために使われたというから、巨大なのも納得。そして、声が良く響くことから、「話す洞窟」という異名も。
巨石を見ると「神様…」と思ってしまう日本人の感性ゆえか、妙にこの石切場が心に残ったのだった。
⇒ ネアポリ考古学公園の入園料は大人13ユーロ。英語のパンフレットPDFはこちら
正直、日本での知名度はそれほど高くないシラクーサだが、そのスケールの大きな歴史、おわかりいただけただろうか。
今はこじんまりとした印象の街だが、紀元前5世紀頃は20万人の人口を誇るシチリア最大規模の都市であり、7世紀にはビザンツ帝国の西側の首都にまでなった、ヨーロッパ屈指の古都なのだ(参考文献:『地中海の十字路=シチリアの歴史』 (講談社選書メチエ) 藤澤 房俊著)。市内および周辺の歴史的建造物や遺跡が「シラクサとパンターリカの岩壁墓地遺跡」として世界遺産にも登録されている。
どこの国も歴史好きなのは老人が多いと決まっているせいか、観光客の年齢層も高め。日本でいうと、京都よりは奈良みたいな街なのかもしれない。
私が旅した3月は、まだ観光シーズンが始まる前で、街にはのんびりとした空気が流れ、お店やレストランの人たちもすこぶる親切だった。4月のイースター休暇以降はおそらく見える景色も変わるのだろうが、初めてのシチリア旅行、最初に選んだのがこのおだやかで美しい街で良かった、としみじみ思ったのだった。
<シラクーサへのアクセス>
シチリア第二の都市であり、国際空港のあるカターニア空港から直通バスで約1時間。鉄道でもいけます。私はinterbusで行きました。片道6.2ユーロ。オンラインで切符購入も可能。⇒ https://www.etnatrasporti.it/
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トリッププランナー編集長。 これまで行った旅先は世界40カ国、うち半分くらいはヨーロッパ。興味関心のあるテーマは歴史と建築、自然。一眼レフ好きだったが重くて無理になりつつある今日このごろ。