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何かとお固い世の中に、やわらかい「伊勢うどん」スピリットを
Profile
大人系&検定系コラムニスト。三重県松阪市出身。2013年8月に伊勢うどん大使に就任し、『食べるパワースポット「伊勢うどん」全国制覇への道 』も出版。
伝説の指南書『大人養成講座』でデビュー以来、DSのゲームにまでなった『大人力検定』など大人関連書籍を多数出版、日本の大人シーンを牽引し続けている。近著に『職場の理不尽-めげないヒント45』。2012年7月にfacebookで「伊勢うどん友の会」を設立し、地元三重県のやわらかグルメの素晴らしさについての発信もスタート。石原さんの三重への愛がほとばしる特集「三重講座」(2005年、エキサイト)は、今なお閲覧可能で、三重のことが網羅的に理解できる良コンテンツ。公式サイト「大人マガジン」http://www.otonaryoku.jp
——最近の石原さんは、「伊勢うどん友の会」を立ち上げるなど、地元・三重への愛が高まっていらっしゃるように思います。そこで今回は、大人力ではなく、徹底的に三重のお話を伺いたいと思ってやって参りました。
地元愛はもともと強いんです。三重県の人は全般的にそうなんですけど、とくに伊勢の人はひときわ強いと思います。やっぱり神宮があるからでしょうね。伊勢では「おかげ様」という言葉が大事にされていて、会話の中でもしょっちゅう出てきます。神様に守られて生きている意識が強いんでしょうね。実際、伊勢神宮のおかげ様で黙っていても人が来る状態が何百年も続いていますし。

伊勢うどんのことは昔から大好きで、もっと広く知ってほしいという気持ちはずっとあったんですが、直接のきっかけはTwitter検索だったんです。ある日何気なく「伊勢うどん」と検索したら「伊勢うどん最高!ハマった〜」とつぶやいている方がいて、よく見たら元ピチカート・ファイヴの野宮真貴さんで。
——そんなおしゃれさんが!
野宮真貴さんといえば、僕と誕生日が同じであり、かつ『i-D JAPAN』(ユー・ピー・ユー)で僕が1992年に大人養成講座を書いた号の表紙を飾った方でもあり、もうこれは運命だと雷に打たれたような気持ちになりました。それで、Twitterで唐突に「伊勢うどん通信」を20回ぐらい書いたあと、息の長い活動にしたいと思ってfacebookに「伊勢うどん友の会」を立ち上げたのです。
——今さらですが、ご存知ない方のためにご説明しますと、「伊勢うどん」とは太くてやわらかくコシのない麺を真っ黒いつゆに絡めていただくという、一般的なうどんの概念を覆す三重県の郷土料理です。

——正直、扱われていなかったといったほうが適切な気もします。
そうですね(笑)。知名度はないわ、たまに食べた人は、伊勢うどんの何たるを知らずに「なんだこのゆですぎのコシのないうどんは」などと言って非難するわ。三重グルメ界でも、松阪牛や赤福などに押されて目立たないポジションに甘んじている感じも不憫でした。でも最近は、「伊勢うどん」の個性を頭ごなしに否定せず、あれはあれでいいのではないかと受け止めてくれる人が増えてきたのを肌で感じるんです。
——うどんに対する世の中の価値観が変わって来たのでしょうか。
ここだけの話、Twitter検索で「伊勢うどん」を毎日検索しているのですが、もっぱらホメ言葉ばかりなんですよ。「やわらかくて許せん」といった書き込みは20件に1件ぐらいしかありません。週末に検索すると、遠くから伊勢神宮を訪れて初めて伊勢うどんを食べた人が「おいしい」と喜んでいるつぶやきがたくさん出てきて、深い感動に包まれます。
——いよいよ盛り上がって来たのかもしれませんね、伊勢うどん!
ま、もし「さぬきうどん」で検索したら、もっとたくさんのそういうつぶやきが出てくるのかもしれません。怖いからやってませんけど。
それはさておき、最近の話題でいえば、かつて全国の産物を参拝客でにぎわう伊勢の町に運び込む港として栄えた伊勢市の河崎という町が、古い町並みを残しつつ観光地として生まれ変わっているですが、そこではすごくおしゃれな伊勢うどんが売られているんですよ。デザインを手がけたのはニューヨークで修業し、生まれ故郷の伊勢に戻って活動なさっている中谷タケシさん。河崎にある100年前の石蔵を改造したカフェ「モナリザ」などで買えます。

渋谷のド真ん中のヒカリエという最先端のスポットに「伊勢うどん」をメインにしたお店がオープンしたことは、伊勢うどんの歴史に輝かしく刻まれる大ニュースだし、伊勢うどんを応援するものとしてこんなに誇らしいことはありません。本場に比べると格段にゴージャスでおしゃれですけど、地元では素朴だった子が都会風に変わって都会に負けないように勝負している、そんなドラマも感じながらおいしく味わっていただけるかと。
——ちなみに、伊勢うどん以外で、三重グルメなのに今ひとつ知名度が低い、という食べ物はありますか。
認知度は高いけど三重のものだと知られていないものはけっこうありますね。ベビースターラーメンとか井村屋の肉まんあんまんとか。あとは、あられをお茶漬けにして食べるという文化はあまり知られていないかもしれません。
——え、お茶漬けの上にかかっているあられではなく、あられだけにお茶をかけるんですか。
はい、三重では、あられをどんぶりに入れてお湯をかけて食べるんですよ。
——何でも柔らかくふやかすのがお好きな土地柄ですね(笑)。
なんとか食べ物を柔らかくしようという文化はあるかもしれませんね。肉も、赤福も、うどんも、そして歯ごたえが身上のはずのあられまでも。

——美味しそう! これは若者向けだし東京でも流行りそうですね。最後に、伊勢うどんにおける今後の石原さんの活動予定について教えて下さい。
伊勢うどん伊勢うどん言っていたら、知り合いの編集者が「そんなに言うなら伊勢うどんの記事を書いていいよ」と声をかけてくれて、「cakes(ケイクス)」というサイトで「伊勢うどん全国制覇への道」という短期集中連載をやらせてもらうことになりました。その記事のためと、いずれは伊勢うどんの本を作りたいという思惑もあり、何度か三重にいって老舗の伊勢うどん屋さんや製麺屋さんにインタビューさせてもらっています。聞いてみると、面白い話がたくさん出てきますね。
20年に一度の式年遷宮で、伊勢神宮や伊勢が大きく話題になるのは間違いありません。伊勢うどんを盛り上げるには絶好のタイミングなんです。

ぜひ、中継基地には私の松阪の実家を使ってください。
——ありがとうございます(笑)。では、当面の伊勢うどん友の会の目標は書籍化ということでよろしいでしょうか?(編注:その後、2013年に見事に書籍化を実現)
それはあくまでも通過点ですね。JR山手線構内のあじさい茶屋のメニューに伊勢うどんが入るまで、いや、全国的に飲み屋さんの締めのメニューには伊勢うどんが載っているのが当たり前になり、「三重出身なんですよ」というと「ああ、あの伊勢うどんが美味しいところですね」と言われるようになるまで、頑張りたいと思います。
——壮大な夢ですね。私もfacebookの伊勢うどん友の会のメンバーとして、今後も機会あるごとにトライしてみます。今日はお忙しいところ、どうもありがとうございました。
はじめて伊勢うどんを食べたのは、伊勢神宮の門前町にある老舗の「岡田屋」だった。その麺の太さとやわらかさ、真っ黒いとろりとした甘辛いタレは、それまでの自分のうどんデータベースにはない味で、衝撃を受けたのを良く覚えている。でも、よく考えてみると、味噌煮込みうどんだって稲庭うどんだって、さぬきうどん的王道うどんから見れば麺も汁もずいぶん違うではないか。みんな違ってみんないい……うどんとは本来そういうものなのかもしれない。400年以上の歴史を持ちながら、これまで地元で愛される郷土料理の域を出ることのなかった伊勢うどんだが、最近では、「伊勢うどん 『麺-1GP』で王者・讃岐うどんより長い列つくる」という快挙を達成したりと徐々に全国的にも注目を集めてきているようす(あれ、でもこの記事、よく見たら書いているのは石原さん……!)。来年の式年遷宮で、伊勢神宮と一緒に伊勢うどんももっともっと注目されると良いですね!(取材・文 野口美樹)