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パリ留学時代から、蚤の市に通い続けています
Profile
フリーランスのライター・編集者。最近は特に旅に関する仕事が多く、ガイドブックや雑誌の特集などで活躍中。共著に『ブルックリン・ネイバーフッド』『ベルギー・ブリュッセル クラシックな街歩き』『オランダトラベルブック 』『エコバッグ・ブック 』。ライターの佐々木素子さんと旅好きユニット、auk(オーク)としても活動中。横浜にあるギャラリーを併設した国内外の古本と雑貨を扱うショップgreenpoint books & thingsの店主でもある。
――赤木さんが手がけるガイドブックや旅の記事は、どれも独特の雰囲気があって、古いものやかわいいもの、アートやカルチャーに関する情報が充実していて本当に大好きなんですが、旅をテーマに活動されるきっかけはあったのでしょうか?
学生時代は映画関係の仕事に就きたいと思っていたんです。語学ができたほうがその仕事に役立ちそうだなというのと、高校生の頃から『Olive』などの雑誌をすごく読み込んでいたせいか、海外というとフランス以外は考えられなくて(笑)、大学卒業後に少し働いてお金を貯めてからパリに一年留学しました。それがきっかけといえばきっかけかもしれません。
――素敵ですね~、パリ留学。
それが、パリに到着したとたん、空港でパソコンとかが入った大事な鞄を盗まれてしまって、初日に「もう帰りたい……」と。芸術家じゃない人には風当たりが強い土地なので、ところどころで嫌な気分にさせられるし、貧乏学生だったのでマーケットで買った野菜を何日もかけて少しずつ食べるひもじい毎日で……あまり素敵ではなかったですね。
――やはり観光ではわからない現実がいろいろあるんですね……。
それでも良かったのは、出発前に古書店ユトレヒトの江口宏志さんと知り合ったご縁で、留学中に本や雑貨の買い付けのお手伝いをさせていただけたことです。蚤の市やブロカントを徹底的に調べて毎週通う傍ら、江口さんのご紹介で旅雑誌『PAPER
SKY』の取材のコーディネイトみたいな仕事も少しして、現地に取材にいらした敏腕編集者の方と出会い、その視点や特集の組み立て方にすごく感銘を受けました。その頃から、帰国したらまた出版社で働けたらいいな、と思い始めて。帰国後は、ユトレヒトでアルバイトをしていたのですが、ちょうどポストに空きが出たということで、すごく短い間でしたが『PAPER
SKY』で編集者として働くことが出来ました。

学生時代から、まわりにものづくりをしている人が多かったので、漠然とお店をやりたいという気持ちはあったと思うんですが、やはり一番最初に意識したのはユトレヒトのお手伝いをしていた時だと思います。せっかく買い付けたものをただ渡すだけは寂しいので、いつか自分で売れたら買ってくれる人の顔が見えて一番いいのだろうなぁと。
念願の編集者になれたので、その思いはしばらく封印していたのですが、都内から横浜に引っ越してきて、山元町商店街のこの店舗の建物に出合ってしまって……それがgreenpointをオープンしたきっかけとしては一番大きかったですね。珍しい古い看板がそのまま残っている外観を見て「ひょっとしたら中も変に改装されてなくて昔のままの雰囲気なのでは」と気になって、軽い気持ちで内覧させてもらったら、思い通り! 什器もすべて古いまま残っていてすごく雰囲気がよかったんです。
編集業も続けているので両立ができるか、しばらく悩んでいたのですが、こんないい物件はなかなかないのでやってみようかな、と。大好きなブルックリンの街greenpoint から名前を取りました。ブルックリンにあるような、地元の人に愛されるお店になれればと思っています。

この雰囲気を壊さず、もっと人が集まる場所になればいいなと思います。結構シャッターが下りているお店が多くてもったいないので、カフェがオープンしたらいいなと思っています。
――編集の仕事に、お店を開くという両方の夢をかなえた赤木さんですが、最近は、ライターの佐々木さんと結成している旅好き編集ユニットaukで、パッケージツアー「オランダ雑貨めぐりの旅」を企画されるなど、大好きな旅の分野でも前進されていますね。オランダってチューリップの印象からか、春の旅先というイメージでしたが、冬もおすすめなのでしょうか?
冬は街もクリスマス仕様になるし、運河が凍ってスケートリンクになったりして、特別な雰囲気があると思います。あと、クリスマスのような大きなイベントがある時に旅をするのは、国民性が見えるのでお勧めですよ。
――赤木さんはもともとオランダが大好きでいつか住みたいとまでおっしゃっていますが、どんなところに惹かれるのでしょうか?
最初に訪れたのはパリ留学中だったので、どこの国に行っても「なんてみんな良い人!」って感じだったのですが(笑)、それでも特にオランダは、街のポスターやカフェの内装など、その独特の色使いやデザインに魅了されましたね。
最近は仕事で何度も通っていますが、いつ行っても本当に楽しいし、ご飯も美味しくて人も穏やかで優しい。蚤の市に行くと、すごくお洒落な女の子が安い古着を一生懸命探していたりして、お金をあまり使わずに上手に暮らすのが好きという国民性にも共感します。

その国の人たちのふだんの暮らしが感じられる場所が好きなんです。だから、旅先では高級なレストランで食事するより、マーケットやスーパーでお弁当を買って食べたり、食べ歩きする方が好きですね。
――ちなみに、あちこち旅をされてきて最も心に残った場所はどこですか?
その質問はすごく難しいんですが……、それまでの人生では全くなかった経験ができたということあれば、去年訪れた北スウェーデンのラップランドでしょうか。


――文化系だと思っていた赤木さんが大自然も好きだったなんて、意外です。ちなみに、今後特に行ってみたい場所はありますか?
実はプライベートで一番行く場所はハワイだったりするんですよ。まだまだ行ったことのない場所が多く、今後の希望はたくさんあるのですが、バルト三国、特にラトビアの民芸市には行ってみたいですね。素朴なかごや木製品など、手作りのものがたくさん並び、すごくいいと聞いて気になっているんです。それからアイスランド。いつか行きたいと思い続けています。
――ラトビアのかご、とても気になります。またかわいい雑貨がたくさん買い付けられてgreenpointに並ぶのが楽しみです。今日はありがとうございました。(2012年9月)
今回、取材で山元町商店街を訪れて、横浜の奥の深さというか、特異性に改めて感動した。いかにも21世紀都市といった景観のみなとみらい地区のすぐそばに、原色と装飾とネオンが煌めく中華街があるかと思えば、そこから道を一本隔てただけで、クラシカルなファッションの町・元町が現れる。激しく異なる3つの世界が同居しているだけでも驚きなのに、さらに元町から徒歩10分程度で、今度は昭和30年代の日本にタイムスリップしてしまうのだ。こんなに少ない移動距離で、これほどバラエティに富んだ風景を味わえる土地は他にないのではあるまいか。アンティークとの付き合いの長い赤木さんが魅了された昔ながらの山元町商店街は、すごくフォトジェニックでいいところなので、元町や石川町に来たら足を運んでみるのがおすすめ。赤木さん、教えていただいたgreenpointすぐそばの「おかめ」の大福、すごく美味しかったです♡(取材・文 野口美樹)