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旅の楽しみは、その土地の“ソウル”を感じること
−−今は大体どれくらいの頻度で取材で旅をされているのですか?
最近は、取材のクオリティを保つためにも、昔に比べるとそれほどハードなスケジュールにはしないようにしています。基本的には海外に月1回、国内に月1、2回というペース。もっと忙しいときもありますけれど、それが理想です。
−−一般人からすると十分ハードかもしれません(笑)。坪田さんというと、アジアのスパ・リゾート関連のお仕事のイメージが強いのですが、最近もアジアへはよく行かれるんですか?
個人的にはそれほどエリアにはこだわっていないんですよ。自然と共生し、その土地独特の文化伝統を生かしたアクティビティやデザインがあるリゾートが好きなので、それが実現されていれば、ヨーロッパでもアフリカでも好きです。実際のところ、最近は、仕事でよく行くのはヨーロッパですね。私がアジアのスパをメディアで提案していたのはまだブームになる前だったのですが、5年くらい前からそのテーマはもう飽和状態に近く、今はそれだけでは企画になりにくいという実情もあります。
−−土地独特の文化伝統というのは確かに大切ですね。アジアにあるのに、欧米風の建築やイメージを押し出していたりする所も多い。
最近は、リゾートもいかにその土地の魅力を伝えられるかという方向にシフトしてきています。じゃないと、どこに行っても同じ体験しか出来ないですから。
私も、コンテンポラリーだったりデザインコンシャスすぎるホテルよりは、その土地らしさや自然と一体となった場所を、値段にかかわらず選ぶようにしています。

安い宿も好きですよ。ど田舎にある竹で作った小屋で、シャワーが外にある、みたいなところにも泊まります。
−−意外です! 坪田さんというと、すごく素敵なリゾートのイメージ強かったので。
でもその「すごく素敵なリゾート」の魅力って、そういう田舎の素朴な宿にあったりするんですよ。
自然と同化してリラックスできるとか、裸足でいると気持ちがいいとか、土地ならではの気配やソウル、バイブレーションを感じられるかとか。その経験ができるのであれば、お金をたくさん払おうが、そうでなかろうが、私の中では魅力のコアな部分は同じなんです。
−−日本だとついつい宿を値段でランク付けしてしまう傾向がありますね。
もちろん豪華な5つ星ホテルも大好きですよ(笑)。いずれにせよ大切なのは、その土地を楽しむには、どこがいいかという視点だと思います。
−−アジアについては、個人的にはどんなところがお好きですか?。
アジアは今でも大好きです。一見同じ様に見えても実はいろんな色が混ざっているような多様性が魅力ですね。エリアによって文化が異なったり、去年と今年はちょっと違うとか、そういう微妙な差異を見分けるのが結構面白い。
−−特に好きなエリアはありますか?
ラオス、ミャンマー、タイなどメコンの国々が好きです。仏教国なので落ち着くというのもありますね。インドネシアのバリ島はもう30年ぐらい通っていて1年に1、2回は行っていましたが、最近はあまりにも進歩しすぎて私のマイブームとしてはちょっと落ちついてきましたね。昔はバリに行くとのんびりとした島時間でみんなが動いていて、誰かが遅れてきても「まぁこれもバリ時間かな」という感じだったんですけど、今は観光地化が進んで時間に厳しい世界になった(笑)。

南の島に行ったらルーズでずるずるしているのが好きで、それも「土地らしさ」の要素だったと思うのですが、そういうのが無くなってきた感じはします。
−−これまで60カ国以上を取材されてきた坪田さんですが、特に印象深い場所はありますか。
難しい質問ですが、遠くてもわざわざ日本から旅する価値があるという点でいえば、ナミビアの砂漠でしょうか。地球の裸のまんまの状態がそこにある、といった次元の違う感動を味わえて、ちょっと圧倒的。実はすごく素敵なロッジもあって、ヨーロッパから訪れる人たちに人気のリゾートでもあります。

−−それはすごい……! 行ってみたい! 冬のヨーロッパって寒くてちょっと観光は……と思っていたけど冬ならではの楽しみもありますね。
冬は寒いところに行くのも素敵だと思います。北海道とか青森などの、雪見の温泉もいい季節だし。
−−このサイトは初秋にオープンなので、これから冬に向けて観光はオフになっちゃうかな、と思ってたりしました。
これからオンシーズンになる場所といえば、東南アジアです。10月から2月くらいまでは日本の初夏のように過ごしやすく、緑もきれいでおすすめです。特にタイやベトナム、ラオスなどはこれからがよいシーズンですね。タイの山あいでいえば11月からがベストシーズン。タイ国内でもエリアによって季節ごとの気候は違うので、行く前に確認して行ったほうがいいかとは思います。
国内では冬の沖縄もいいですよ。エアチケットは安くて取りやすくて、暖かいし。私は西表島に行ってマングローブが生息する川でのアクティビティを楽しむのも好きです。こうやって話してると、私って意外とワイルド派なのかも(笑)。
−−本当にワイルドで、すっかりイメージが変わりました(笑)。最後に、坪田さんがこれから提案したい旅のテーマはなんですか?
アフリカのゲームサファリロッジがちょっと面白いと思っています。ヨーロッパから訪れる観光客には比較的ポピュラーですが、まだまだ日本ではメジャーじゃなく、楽しみ方も知られてないと思うので。

−−素敵ですね……、ため息が出ます。
世界にはまだまだ素敵なことがたくさんあるんですよ。南アフリカやボツワナ、ナミビアのロッジについては、2011年発行の『るるぶ南アフリカ』(JTBパブリッシング)に書いてありますのでぜひ御覧ください。
−−そうします! 坪田さんの新しい旅の提案、本当に楽しみにしています。アフリカは行きたいところリストの上位に入れました! 今日はどうもありがとうございました。

今回は「プロの仕事」について、しみじみ考えさせられる取材だった。ファッション誌や旅雑誌のきらびやかなビジュアルの裏には、リゾートのあり方への批評、旅の経験についての本質的な問いかけが、目立たぬように、しかし硬派に存在していたのだ。やっぱりキレイなだけではダメなのですね。飽きっぽい日本のマーケットで、常に第一線で新しい旅のスタイルを提案し続けてきた坪田さんの、企画に対するアグレッシブな姿勢にも感銘を受けた。坪田さん、またゆっくり世界の素敵な場所について教えてくださいませ。(取材・文 野口美樹)