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ピックアップ

旅やおでかけの達人インタビューや、おすすめの旅先レポートなどをお伝えする特集コーナーです。
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林雄司さん
Vol.10

こんなところに来ちゃって俺どうしよう? という場所にぐっとくるんです

林雄司さん

Profile

「Webやぎの目」管理人。ニフティ「デイリーポータルZ」ウェブマスター。1996年にスタートした「Webやぎの目」は『やぎの目ゴールデンベスト』『死ぬかと思った』(シリーズ)など書籍化されたコンテンツも多い人気の個人サイト。2002年に立ち上げたニフティ「デイリーポータルZ」は昨年10周年を迎え、視点を少しずらすだけでぐっと面白くなる世の中のモノやコト、場所に関する記事を毎日配信している。最新刊に『プレミアム 死ぬかと思った』

http://yaginome.jp

――林さんは個人サイト「Webやぎの目」でガスタンクを巡ったり東京落書きツアーズを作ったり、ニフティのデイリーポータルZでも国内外のスポットを紹介する記事を多数書かれています。もともと街歩きや旅はお好きだったのですか?

いや、全然好きじゃなかったです。

――わぁっ、冒頭からインタビューの趣旨が!

学生時代も驚くほど旅行に行ってないですね。
外を歩きまわるようになったのはネットのためなんです。ガスタンクも、会社の先輩に「サイト作りたいんだけど何したらいいかな?」って訊かれて、ガスタンクとか集めたらどうかしてて面白いですよって自分が盛り上がってしまって始めただけで、もともと好きだったわけじゃない。サイトありきなんです。
なんか思ったことをネットに書くのは良くないと思ったんですよね、……なんでそう思ったんだろう? 「俺はこう思う」みたいに偉そうに書くことへのテレだったのかもしれない。
自分の内面よりも、ここにこんな面白いものがあったよ、っていう話の方が読んでもらえるし、誰でも楽しめるじゃないですか。

――ちなみに林さんが訪れるスポットって、独特の選択の軸がある気がするのですが、どんな場所に旅情をかき立てられるのでしょうか?

地味でつまんないところですかね。墾田永年私財法発祥の地なんかは、最近では一番良かったですね。行ってみて、なんでこんなとこ来ちゃったんだろう、俺どうしよう? って呆然とするような場所が好きですね。地元の人に「ここで何か観るものありますか?」って聞いて、「ないねぇ」とか言われる会話にもぐっと来ます。

墾田永年私財法発祥の地
墾田永年私財法発祥の地を訪れた林さん(写真:デイリーポータルZ

――そうなると、旅の目的としては何をしに行っていると言えばいいんでしょうか。

特にないですね。困りに行く。

――あははは。ちなみに今までで一番ぐっとくる何もない場所を挙げるとしたら?

冬に北海道の池田町に行った時は、すさまじく何もなくて良かったですね。酒屋の店先で黒曜石が2個100円で売ってたんですが、ただの光ってない丸い石なんですよ。店のおじさんに「これどうすればいいの?」って聞いたら、「一日ぐらい磨いていると光る」って。一日かよ! 

――ちょっと自分の中にある尺度では図れない感覚ですねぇ。

そこで100円の石を買ったら、おじさんが郵便局から来た古い封筒をとってあってその袋に入れてくれたんですけど、それもすごい良かった。そういうのは妙に覚えてますね。

あと、おたまじゃくしが降ったことで一時的に有名になった石川県の七尾市も、本当に何もないところで、何もないなー、どうやって帰ろう? と困惑する感じが良かったです。

――でも一方で最近は個人で台湾や香港など、わりと客観的に見ると「いろいろある」ところにも行ってらっしゃいますよね。

ここ1年ぐらい、やっと取材以外でも旅行する気になってきたのですが、行きたいと思うのは世界の蒲田みたいな場所なんですよね。新宿とか大森も大好きなんですが、やはりどこか想定内なんですよね。世界の蒲田のナイトマーケットや電気街に行くと、わけがわからないものが売っていて、やっぱり「どうしよう」っていう感じがあるんですよね。説明がつかない感じとか、そう来るか! とか。

――「どうしよう?」が、やっぱり林さんの旅の琴線なんですね。でも想定外のものとの出会いを求めるって、異文化に触れることで視野を広げるという、旅の普遍的なテーマとも言えます。

いわゆる町おこしみたいに話題になるのを狙ってなくて、みんな真面目なんだけど面白くなっちゃったみたいな場所が好きなんです。

――狙った通りのことになっているところには興味がないわけですね。勝沼でワインとか、青梅で赤塚不二夫みたいな……。

厳しいですね。当たり前すぎて記事にならない。

――そこはやはり根っからのメディア人ですねぇ。林さんの旅行先のチョイスの軸がどこにあるのか今日初めてわかりました。ちなみに次に行きたいところはありますか?

うーん……、ロズウェルのUFOフェスティバルはちょっと行ってみたいですね。宇宙人のコスプレ大会がかなりレベルが低そうで、見てみたい気がします。

ロズウェル
UFO尽くしのロズウェルの町(photograph by katiew)

林雄司さんのマイページ | トリッププランナー

林さんの文章には「余白」があっていいな、といつも思っていた。何かをレポートしていても、対象と林さんとの間には埋められないわずかな距離(あるいはずれ)があって、そこにリリカルだったり真実だったりする心情が挟み込まれている独特の文章。どうやったらそんなふうに書けるんだろう? と思って来たけれど、今日はヒントをもらった気がする。林さんはわからないものが好きなのだ。それは考えるのが好きとも言える。困って、考えて、自問自答して、というぐるぐるがあの魅力的な文章の源泉だったのだ。
自分はいつも失敗しないように、まるでTODOリストをこなすように旅を「処理」してはいなかったか? 旅は予想外のことが起きるのが必至であり、間違えて降りてしまった目的地の隣の駅の方が、あとでずっと鮮明に思い出されたりするではないか。どうしよう? から生まれる自分との対話を次の旅ではもっと楽しんでもいいかな、と肩の力が抜ける気がした。(取材・文=野口美樹)

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風呂で読むのに最適。初対面の子どもに「あのトイレの本の人?」と言われたこともあります。その家ではトイレに置いてあったみたいです。

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